Side-イデア:力を求める者
白が行ったのち、イデアは己が未熟に葛藤していた。
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……負けた。
前はあそこまで強くなっていたこの俺様が、ああもあっさりと背後を取られた……!
なぜだ! なぜ、この俺様が負けねばならんのだ!
……認めん……断じて認めはしない、俺様はヤツに勝ってみせる!
……そうだ。
それこそ、戦う事こそ、俺の存在理由だったから。
この俺様、イデアこそ、世界の命運を担う者と信じて。
だからこそ、娯楽も恋愛も、自由も、何から何まで俺様は奪われたってのに!
アレンが生まれ、その圧倒的な潜在能力を見せつけられた……!
幼少期のその時、初めて俺様は人生において挫折を経験したのだ。
父上にも勝る俺様の技量を、さらに遥かに上回るアレンの潜在能力に。
そして、俺様が今まで戦うだけの兵器として育てられ、鍛えられ、生かされてきたってのに、アレンが生まれた途端
この俺様を戦闘人形として生み出し、育てたくせに……! 俺が、今の今まで耐えてきた事も知らずに……!
俺が今まで、ありとあらゆる娯楽を受けられずに、その現状を受け入れ、父上の為なら、と耐えてきた事も、何も知らずに!!
根底にあったのは、激しい怒りと失望だけだった……!
戦う事を理由として産み落とされ、しかしその理由を望んだ者に否定された男。
それがこの俺、イデア・セイバーの正体だった。
だからこそ、ヤツを、アレン・セイバーをこの手で、1対1で八つ裂きにしなければ気が済まないと。
そう、俺は結論づけたのであった。
しかし、ヤツはこの勝負をも否定した……!
この絶対に決着をつけねばならない、運命の勝負を否定したんだ!
「どうでもいい」…………確かにヤツはそう発した……!
この俺様を完膚なきまで叩きのめした挙句、ヤツはこの勝負をどうでもいいなどと結論づけ去っていきやがった!!
悔しい、悔しいっ!
———圧倒的な戦力差。天と地ほどの違い。格差。
どうやって勝つか、などどうやっても思いつかない。
俺様はあそこまで努力して強くなったってのに、ヤツは……アレンはあそこまで強くなっていた……!
一体、一体どうすれば、俺はヤツに追いつく……!
一体どうすれば、俺はヤツを超え……
その時。思い出したのは、アレンと再会する前に出会った、黒の甲冑を身に纏った女騎士。
アイツは、アイツは明らかに人間だったはずだ。
……しかし、アイツは魔王軍に所属していたはず。それも、魔王軍……幹部の。
……人間なのに魔王軍?
妙な違和感。
人間の割には、人間離れした強さを持った女騎士。
……つまり、つまりだ。
魔王軍に所属すれば、人間離れした強さが手に入る……?
保証はできん。アイツが元々そんな強さを持っていた、ただそれだけかもしれない。
だが。もし、少しでも可能性があるというのならば———、
行くしかないか、魔王軍の王城、魔王城へ……!
◆◇◆◇◆◇◆◇
そこからは、ただただ苦行の旅だった。
西へ、西へ。魔王城のある西の果て、魔界に向かい4ヶ月。
道中で出会った魔族は斬り殺し、食糧として捕食し、魔族の持っていた水を奪い、水分を補給し、迫り来る魔族を全て退け、魔王軍戦線をも切り抜け。
ついに、ついに、死に物狂いで魔王城に到着したのだ。
……だが、だからと言って魔王やら何やらに太刀打ちできるとは思ってない。
俺はただ、アレンに勝ちたいだけなのだ。
石造りの門。ほのかに残る魔力の残り香。
……着いた事さえ夢かと思うぐらいの果てしない道のり。
しかし、しかし……これでついに俺様は、ヤツよりも強くなれる……!
期待に膨らむ胸を抑え、勢いよく紫の木門を押し開く。
暗過ぎる大広間にそびえ立つ12本の柱。
その柱に1本ずつ、向かい合うように設置されている松明。
うち灯っているのは3本のみ。
柱は左右6本ずつ配置されており、その真ん中には灰色の絨毯。
絨毯の先には階段があり、奥にはベールに阻まれ、下のみが見える空間。その中には、玉座に座った大きな人影。
その両脇には、刀と剣を地に突き立て、立ち続ける甲冑を纏った騎士が2人。
刀を持った方には見覚えがないが、剣の方は……!
あの時の、黒の女騎士……!
……と。
「何用だ、そこの者。魔族ではない事は分かっているぞ」
女騎士は高圧的に言い放つ。
「魔族じゃないのは……キサマもだろう?」
「何用か、と聞いているのだ、質問に答えろ」
「……ならば単刀直入に話そう、俺様は……
……力が欲しい!!」
そう、何にでも縋り、何があろうと強く有ると決めたのだから。
今更その信念を曲げられはしないものだろうッ!
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