真剣勝負(?)

 支度をし、出かける準備をする。

 何より、久しぶりに黒以外の人と話すから心の準備も必要だ。もちろん護身用の刀も。


「行ってきま~す」


「……ああ、無事に帰ってこいよ」




 ……まあ、ただ木材を買いに行くだけだから、心配することもないだろう。

 ……いや、何も起こらないと信じたい。




 ツリーハウスから歩いて30分。丘を登ると、木の外壁に囲まれた活気のある村が見えてきた。


 心地よい風が頬を撫でる。

 ……ああ、気持ちがいい。

 こんな時間が一生続けば……







 よかったのに、何で、どうして既に後ろから殺気がするんですか。


「……そこにいるのは誰だ」


「フハハ、やはりキサマかアレンっ!」


 ……あー、戦闘狂だ。


「アレン、今日で決着をつけさせてもらおうっ!」



 ……目の前に出てきたのはイデア・セイバー。


 戦闘狂の……俺の兄だ。……というか何でこんなすぐに会ってしまうのかなあ。

 ……何でだ。何でコイツと会ってしまうんだよ。こんな簡単に。


「1年間探し続けた甲斐があったもんだぜ、なあアレン! 俺たち兄弟の決着をつけさせてもらおうっ!」


「はいはい、どーぞいつでも来てくださ~い」


「貴様、どうして今日はそんなにダルそうにしているんだ!」


「いやだって、兄さんに出会うなんて思ってもなかったし、戦う事になるなんて思ってもなかったしなぁ」


「……俺様の未来の花よ……サナとかいう女はどうした!」


「ダメだコイツ話聞いてねえっ!


 あいつとは今離れてるんだよ。俺もお前と別れた1年、色々あったんだ」


「変わったのはキサマだけと思うなよ……今日は邪魔も入らない! 心置きなく戦える!」


「あっそ、来るなら早くしてくれないか?」


「言われなくとも……! キサマと決着がつけれるこの日を俺は心待ちにしていたんだーーーっ!」


 兄さんは刀を振り下ろそうと構えて走ってくる。前と同じ、目にも止まらぬスピードが迫ってくる。


 それは本来、俺にとっては恐怖すべきものだったのかもしれない……





 ……が。俺は、この時点で気づいてしまった。



 ああ、俺と兄さんじゃ、勝負にならないな、と。




「スオリャアアアアッ!」


 振り下ろされる刀。それを振り下ろされる一瞬前に見切り、さっと避ける。


「何だと?!」

「当たると……思うか?」


 幾度となく振り回される刀の間を縫って避けまくる。


 ———自分でも正直、何をしているのかが分からない。


 そう、コレは真剣勝負。何もかも、一切合切を切り捨て、その果てに全てをぶつけるはずのもの———だったはずだ。


 ただ、あまりの実力差が開いてしまおうものなら……こうなってしまう。


 兄さんは疑問気に思っているだろうが、変わったのは兄さんだけじゃなかった。



「なるほど……どうやら俺は強くなりすぎてしまったらしい」


 こんなことを言えるだなんて、俺は思っても見なかった。


「ほざけぇっ!」


 負けじとさらに猛スピードで振り続けられる刀。だが、



「攻撃が一辺倒過ぎる。そればかりしていて、勝てると思うなよ」


 冷静に落ち着いて、全ての斬撃を回避する。

 何もかもが見切れていた。……黒から見た、2年前の俺って、ここまで未熟だったのかと改めて思う。


 そして、


「もう……終わらせるぞ」

「後ろ?! いつの間……に……!」



 1秒にも満たないうちに背後を取り、木刀で1発。


 あっちの刀は、もちろん真剣だった。その鋼が、俺の皮膚を切り裂かんと襲い来ていたのは2秒前の話。


 だが、俺は未だに木刀のまま。神威の概念封印は、外してはいなかったのだ。


 ———何が言いたいかと言うと。

 手加減にも程があった。


「勝負あったな。兄さん、これで満足か?」


「あ……ああ……この俺が……この俺様が1発たりとも、アレンに当てる事が出来ないだと……!」


「そうだ、何度やっても同じだ」


「認めん……!」


「ん?」


「認めんぞおおっ!! キサマなぞに負けるなどと……!!


 今日、邪魔もなしにキサマに勝って、完全な勝利を手にするはずだったこの俺様……が……!!」




「もういいよ、俺はもう別にこの勝負にこだわっちゃいないし、兄さんとも戦いたくはない、もう俺にとってはどうでもいいんだ」




「なっ……!」


 兄さんは膝から崩れ落ちる。

 ……それでいいんだ。俺はお前と殺し合いがしたいわけじゃない。

 もう関わらないと言うのなら、それでも構わないんだ。


「どうでもいい……どうでもいい……だと……!」





 そう、実にどうでもよかった。

 兄さんはどう思っているか。まあこんな勝負をふっかけてくるぐらいだから俺を倒す事を人生の第1の目標にしているんだろう。


 だが。今の俺には、そんなもの関係なかったから。




「俺たちの……因縁の勝負が……!」


「大事だと思ってるのは兄さんだけだ。それじゃ、俺は用があるんで……じゃあな」


 めんどくさい事になる前に早めに切り上げる。




 ……まあ、あそこまで完膚なきまで叩きのめしたんだ、もう勝負なんて馬鹿馬鹿しい事を挑んでくる事はなくなっただろう。

 ……なくなってくれるといいんだけど。

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