選タク

「このままで良いよ」


「そういうと思ったぜ、流唯」

 何かあったらお互い行き来すれば良いしな、と言ってトキオはオレの肩をガッと抱き、主人公のような笑顔をした。


は起こる。そういう世界だからな。それに違う世界では自分の能力を100%活かせない。分かっているな」

 テオは相変わらず姿勢よくそう言った。


 自分の能力が分かって、それを100%活かせる人間なんているのだろうか。


「俺は戦う相手がいれば、それで良いぜ」

「オレは……この世界が良い」


 それだけだ。

 生きる理由なんてそんなものだろう。

 ナラに視線を送りそうになったが、慌ててテオに向き直る。


「……分かった。ボスにそう伝えよう。お互いの行き来はこちらで管理する。トキオは二度と空間を腕力でこじ開けないように」

 トキオは不満気な顔をした。


 テオの背中に黒い穴が現れる。


「じゃあな、トキオ」

「おぉ、流唯。……なぁ、お前さ、俺の呼び方おかしくねぇか?」

「トキオ?」

「時央だ」

「トキオ。同じじゃないか」

「……なんっか違うんだよなぁ……まぁ、いいか」

 じゃあなと言って、ついさっき現れたトキオはあっさりと元の世界に戻っていった。

 

 穴がトキオを飲み込むように小さくなり、そして消えていく。

 

「……流唯、学校行こうか!」

 ナラが何事もなかったかのように、笑顔を向けた。


「あぁ」


「これから少し鍛えたら?」


「なんで」


「だって、時央が戦うような相手が現れるかもしれないんでしょ?」

「……」

 ナラは楽しんでいるかのように言った。


「テオもそう思うよね?」

「そうだな。まぁ歯は立たないだろうが。多少はな」

「お前は残るのか」

「オレ様は、ルイとセットだ」

「ウチ、猫飼えるかな……お前、普段何食うの?」

「流唯、話逸らしてる!!」


 オレが聖なる力を使って戦う世界がある


 ……らしい。


 でもそれは目の前の現実には霞んで見えた。

 

 学校の課題に、ナラ、友人たち。そして、これからやってくるかもしれないサガミのような奴らとの戦いに思いを馳せた。


 入道雲はいつの間にか空に散って、青い空には曖昧な白い雲が残った。

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トーキョー転生 Fuyugiku. @fuyugiku000

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