異セカイ

 目の端に映ったのは、入道雲から湧き出てくるこの世のものならぬ禍々しいだった。


「よそ見とは良い度胸だな」


 入道雲に気を取られ、サガミの声でハッとした時にはすでに遅かった。奴はナラの首を絞め上げていた。

「……っ!」

 ナラがもがいてもサガミはびくともしない。

「サガミ!」

 息ができず紅潮したナラの顔を見て、オレはなりふり構わずサガミに飛びかかった。


 ドサッと巨体が倒れ地面を滑る音がし、ぶつかるはずのサガミが倒れ、オレの体は空回りした。


「……弱いな。こんなのに手こずってたのか、流唯」

 地面に突っ伏したサガミの頭に片足をのせ威張った態度で立つ男がいた。


「だ、誰だ。どこから現れたんだ」

「流唯!この人が佐賀美の頭にドロップキックしたの。空から……!」

「空から!?」


 空からドロップキックをかました男は、筋骨隆々で身長はサガミほどあるだろう。そんな逞しい男は、なぜか高校生と思われる制服を着ていた。それも、女子が読むような漫画に出てくるやけに派手なものだった。


「さて、流唯。次はお前の出番だ」

 男は、入道雲を指差しながら言った。

「そうだぞ、ルイ。もう一度使ってみろ聖なる力を!」

 テオはそう言って、そこらへんに落ちていた木の枝を拾ってきた。


 入道雲を遮るように、禍々しいものたちは数十匹の軍勢で個体を識別できるほど近づいていた。


 1匹と1人の圧力に負け、オレは本日三度目の恥をかこうとしている。

 木の枝を黒いに向けて、叫んだ。

「聖なる光よ、集え……!」

 

 木の枝から放たれた光線は空に真っ直ぐに突き刺さり、まるで太陽を直視した時のような眩しさに一帯が包まれた。

 

 残ったのは大きな入道雲。

 オレはその場にへたり込んだ。


「なんなんだ……」

「やるじゃねぇか。アイツら、俺の拳が全然効かねぇんだよ」

 なんなんだ、の対象の一つである突然現れた男に手を掴まれ立たされた。

「なんなんだ……、お前は」

 男はテオに目配せしてニヤリと笑った。


「俺は時央トキオだ」

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