エレメント
ナラはオレたちを通学路の公園に下ろすと、照れるような(たぶん)そぶりをして家の方に走り去った。着替えに行ったのだろう。
「テオ」
「……」
「テオ、このシャーペンはなんなんだ」
「……」
一瞬、こいつやっぱり猫だったのではと頭によぎった。
「……あれは、ただのシャーペンだ」
「じゃあ、なんで炎があがったんだ」
「シャーペンの力じゃない。お前の力だ」
「……は?」
「お前の力のはずなんだ……、が、おかしい」
テオは IVYの隠れ家にいた時から、しきりに、「おかしい」「なぜだ」とぶつぶつ言っていた。
「何が」
「炎は大して上がらず、お前の決め技が発動しなかった」
「それは……オレの力が足りないってことか」
無力な自分に胸がつかえる。
「それはない。……後で説明しろ、と言ったな」
そう言って、炎の仕組みについて話し始めた。
この世界には、酸素や水素といった元素とは違う構成要素が存在していて、それはエレメントと呼ばれる。あらゆる生き物がこのエレメントを使いこなすことができるが、その威力は個人の生まれ持った能力に依る。俺はその能力に優れ、なおかつ普通では扱うことができない聖のエレメントも力にできるそうだ。
「オレじゃないんじゃないか」
事実、俺は大した炎も作れず聖なる力も発動しなかった。
「さっきも言ったが、お前に間違いはない」
「じゃあ、シャーペンが間違ってるとか。そもそもシャーペンって、おかしいだろ」
「いや、シャーペンは別にいらない」
「……は?」
「エレメントを使うのに、道具も言葉もいらない。イメージすれば力になる」
だが存外難しく、エレメントを習う子供は棒を持って言葉を唱えイメージを持つ練習をする、とテオは補足した。俺は子供のような方法で炎を作ったのか。
沈黙が流れた。
喋る猫に、IVY。ナラの獣化とエレメント。今のオレなら、どんな非日常でも受け入れられるのではないか、と思った。いや、オレはこの段階では、ナラの獣化以外はまだ何も受け入れていなかった。
オレはこのまま傍観者でいられると思っていた。
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