シャーペン

 長年愛用しているシャーペンは、手に馴染んだ。


「……は?」


「それをイヌ野郎に向けて、『燃えさかれ!』と唱えろ!」

 テオはオレに向かって叫んだ。

「先祖返り……!?完全な獣化だと!?」

 間髪入れずに反応したのはイズモだった。

「佐賀美!そのネコも捕まえろ!!!」

 

 サガミがハッとしてテオを鷲掴みにしようとした瞬間、テオの大きな丸い瞳が真っ直ぐにオレを射抜いた。


「燃えさかれ!!!!」


 ボッと、サガミの胸毛に火がついた。


「「「「「!!??」」」」」


「ぎゃーーーー!!!燃えてる、消して、水!水!出雲さん!!」

 サガミは叫びながら、手で火を消そうと奮闘している。


「な、なんだよ、これ。テオ、このシャーペンどうしたんだ……!?」

「……おかしい、この程度の威力なはずがない……」

「テオ!何が起こったんだよ、説明してくれ!」

 

 神妙な顔つきのテオの傍で、サガミは火を消し止めチリチリになった胸毛を撫でていた。その姿が少しずつ変形していく。筋肉は一層張り詰め、顔つきも獣じみてきた。


 グルルルル……


 獣人族イヌ科のサガミが唸った。


「テオ!」

 テオはサガミの姿を間近で見て、毛を逆立て臨戦体制になったが完全にサガミの間合いにいる。

 くうを切り裂くように、サガミの右手がテオに向かって振り下ろした。


「……っ」

 オレは思わず目を瞑った。

 犬と猫の喧嘩、サガミに咥えられたテオが目に浮かんだ。見たくないのに、瞼は勝手に開く。


 そこにいたのは立ちすくむサガミと、大型猫だった。

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