カクレ家

が喋るわけないだろ!」

 そう言うと、テオはぽかんとした顔をした。


「いや、まぁ、そうなんだが、実際しゃべっているから、ここは猫が喋ったと驚く場面だろう」

「だって、動物が喋るわけないだろ」

「同じことを言うな」


「テオ、お前ひょっとして……」

 ひょいとテオを抱え上げ、まじまじとその猫具合を見定める。


「本気で自分のことを猫だと信じているのか……?」


 前足の肉球で顔面を叩かれ、テオは俺の腕からくるりと抜け出した。


「オレ様は、れっきとしただ……!!!」


 ***


 IVYの隠れ家と言われる新宿場末のクラブまで、野良猫御用達と言われる裏道を通って向かった。言い争っている暇などなかったオレは、テオをリュックに押し込み道案内をさせながらナラの元へ急いだ。

 道中、野生の動物に育てられ、自分を獣人族と知らずにいた少年のドキュメンタリーを思い出し、テオに丁寧に獣人族について説明した。


「にゃる、なるほど……」

 テオは背中で揺さぶられながら呟いた。

「ようやく自分が獣人族だと理解したか、テオ」

 背中を蹴られる。

「獣人族がいる世界だとは……伝達漏れだにゃ。な。しかし……まぁ、些細にゃことだ」


 IVYの隠れ家はビルの一角にあった。

 朝だからだろうか、ネオンを纏わないクラブのエントランスは、まるで魔法が解けたかのように見捨てられた古ビルでしかなかった。ゲロを跨いで裏口へ回った。


 息を潜めるテオを背中に確認して、ドアの取っ手に手をかけた。


 オレに何ができる?


 ドアノブの冷たさに、急に現実に引き戻された。


 オレが助けに行ったところで、一体何になるんだ?

 

 それでも握ったドアノブを手放すことができなかった。

 力がこもる。

 動悸を感じ、息が荒くなった。

 握った手は、金属と同化することなく

 手が、ドアノブを握っている感触が、いつまでも残る。


 ……


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