獣人ゾク

 オレは途方に暮れて通学路にある公園にいた。


 ナラのクラスメイトにメッセージを送ると、ナラから今日は休むと連絡があった、と返事があった。ナラを誘拐した奴らが、ナラのスマホから送ったのだろう。


 どうしてナラが?なんのために?疑問が浮かび、そのたびにナラが無事でいてくれという頭の中の一番大きな声にかき消されていった。


「高校裏の住宅地、フェンスを越えて学校に入ろうとしたところを拐われたようだな」

 声だけ聞こえた。


 ブランコに座り頭を抱えていたオレが顔を上げると、目の前にいたのはさっきの変わったネコ科獣人だった。


「拐った奴らは、ここ最近活動が活発になった地下組織IVYだ」

 彼はそう続けた。


「アイヴィー?なんだよそれ。なんでナラが拐われないといけないんだよ!」

 オレは思わず声を荒げた。

「近辺の野良猫たちによると、IVYは獣人族とやらの組織で、獣人至上主義。より強い獣人を生み出すために何らかの活動をしているらしい。お前の幼馴染はサーベルタイガーの隔世遺伝が強く発現しているそうだな。それで狙われたのだろう」


 確かに、ナラは幼少期ふとした時に完全な獣化が起こることがあった。


 完全な獣化、いわゆる先祖返りは強力な遺伝子を祖先にもつ獣人に起こり、隔世遺伝で発現するという。その仕組みはまだ解明されてはいないが、ヒトの知性と飛び抜けた身体能力を持つ先祖返りは地上最強だと言われている。

 

「それで、今、ナラはどこにいるんだ?」

「……助けにでも行くつもりか?」

「当たり前だろ!」

 彼はニッと笑って、そうこなくちゃなと続けた。


 心臓はまだ落ち着きなく跳ねている。

 

 頭だけは何故か冷静だった。


 それはこのテオの存在感のためだろう。

 周到で要領を分かっているかのようだ。


 だからこそ、彼を信用することも危険だった。


「テオ」


「なんだ、ルイ」


「あんたは何故狙われない?」


 完全に獣化するほどの先祖返りが狙われるなら、テオだってそうだ。人の言葉を話すが外見は完全に猫である。


「オレは獣人ではなく、だからな」

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