君はカラオケで歌うのが好きだって言ってたよね。一度くらいは二人でカラオケに行きたかったけれど、僕はあんまり歌が得意じゃないから、いつも君に言えないでいたんだ。流行っている歌はあまりよく知らないし、でも、ゴールディやブケムの話をしても君はわからなかったよね。僕にしても、ある女の子から聞いたトランスのことはよくわからなかった。トリッキーあたりのことを言うのかな。ドラムンベースはもう古いんだろうか。そう言えば最近雑誌もよく読んでないし、結局みんな知らないんだよね。マニアの人以外は。R&Bがリズム・アンド・ブルースってことは知っていても、ジャッキー・ウィルソンのことを知っている人なんてほとんどいないし、僕にしたってわからないことばかりだよ。ドリフターズやレイ・チャールズはそうなんだろうけど、オーティス・レディングやサム&デイブはどうなんだろう。アレサ・フランクリンはソウルのようだけれど。ソウル・チルドレンやキャンディ・ステイトンは?でも、こんなこと君に話してもどうしようもないよね。結局、好きか嫌いかだけはっきりしていればそれでいいっていうことなんだよ、多分。好きか嫌いかっていうことであれば、僕は君のことが好きだ。これだけははっきりしている。でも、君が結婚してくれるとカン違いして、君のことを追いかけているオジサンも、多分、間違いなく君のことが好きだ。問題なのはそのおじさんが君のことを好きってことじゃなく、君がどう思っているかってことなんだ。人を好きになるってことはそのオジサンの勝手だから、それはどうにもならない。そのオジサンは君もそのオジサンと同じくらい、そのオジサンが好きだって思いこんでいるし、僕としては、今のところ君が僕のことをどう思っているかはあまり気にかけていない。結局同じことなのかな。自分がどう思おうとそれはその人の自由だけれど、相手の気持ちはその人の自由にならない。むずかしいよね、生きるって。

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