第3話 謎

 俺たちの研究が始まった。便宜上二つ目の空を「小空」と呼ぶことにする。

 分かっていることは小空の直径が二五◯メートル、恐らく高さ二千メートル以上のところに浮かんでいる事。本当に謎が多すぎて、ほぼ何も分かっていない。

 そこで陽斗がこんな事を言ってきた。

「ヘリに乗って近くから観測しないか?友達にヘリを貸し出せる奴がいてさ」

 願ってもない申し出だ。こうして本日、ヘリによる小空の接近観測を迎えたのである。

「小空に近づいた際に窓を開けて観測が可能です」

 操縦士がそう説明する。

「おう、この振動子ぶち込んでやる!」

 振動子――とは、魚群探知機の一部のことだ。小空の内部構造を調べるために買った。上手く行けばなにか映るかもしれない。

 俺らはヘリに乗り込んだ。バババ……と激しい音がして、機体が浮き上がる。あっという間に小空の横にピタリとつけた。今日の小空は灰色の雲で覆われている。

「今だ」

 陽斗が振動子を思いきり小空に投げつける。小空の表面はゼリーのように震え、ぷよん、と振動子を中に取り込んだ。

「入った!」

「なにか映るといいけど」

 俺は魚群探知機の画面の方を起動する。何かあれば、ここに映り込むのだが。

「陽斗!映った!」

「まじかやったな!」

 二人で肩を組み合って笑い合う。あとは見えてくる画像がどんなものかだが……

「――これ」

「え?」

 なんと、そこに映っていたのは、人の形だった。

 人が横向きに寝ているような形。

 俺と陽斗は目を見合わせる。

「小空の中に……」

「人?」

 ヘリの窓に飛びつくと、図ったように小空の中の雲がかき分けられ……中にいる人間が、見えた。

「……!」

 浮いている、長い茶髪の女の子。

 そこにいたのは、俺の元カノ――宙だった。



「宙!」

 何で宙が小空に?どういうことだ。とにかく助けないと!

「起きろ宙!」

「ちょ、そんなに乗り出しちゃ危ねえよ!」

「でも宙が」

「宙って……お前の元カノ?あれが?」

 と、雲がまた湧いてきて、宙を隠してしまう。待って、という間もなく――突然、バラバラっと大きな音が四方から聞こえてきた。

「何だ……」

 見れば――が降っていた。雨ではなく、飴が。ヘリにも当たってバチバチと音をたてる。

「これ以上は無理です!離脱します!」

 操縦士の声が遠く聞こえる。俺はまだ小空を見つめていた。徐々に、小空が遠のいていく。

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