第2話 研究室

みなと!今日の空見た?」

 研究室に入った途端、気象学で同じゼミの陽斗はるとが俺の肩に手をがっつりと乗せてきた。さり気なくその手を払う。悪い奴ではないが、いつも距離が近い。

「見たよ。写真撮ってきた」

「マジ⁉」

 青空に浮かぶ夕焼け空の写真を見せる。

「あれ、自然のものかな?」

「俺はそう信じたい」

「アドバルーンにしては企業名は書いてないし、ビルより大きく見えるしな。人工物ではないよな」

「未発見の自然現象だろ!」

 うん、と頷く。珍しく陽斗と意見が一致した。

「おし、じゃ研究するか」

「え?」

「どうせお前、夏休みの予定なんかないだろ」

 ばん、と背中をはたかれる。その衝撃で俺のポケットから写真が一枚落ちた。

「誰それ」

 拾われてしまった。

「美人じゃん。これ湊の彼女?」

「……元カノだよ、高校の。幼馴染でさ。一緒に空を見に行こうって約束した時に撮ったんだ」

「お前にも彼女がいたとはな!で?何で別れたんだよ」

 はあ、と溜息をつき写真に写ったそらを見つめる。長い茶髪に猫のような目をした、人生で唯一の彼女。

「大学に行って遠距離になったんだよ。そっから自然消滅。今は……もう会えない」

「で、お前まだ彼女のこと好きなんだ?写真残してるくらいだしなあ」

 深く切り込まれなくてほっとした。

 実は、宙は去年交通事故で死んでしまっている。だからどれだけ願ってももう会えないのだ。

「これはお守り代わり」

「ふぅん?」

 陽斗はまだにやにやと笑っていたが、教授が来たので自分の席に戻らざるを得なくなった。

 俺は宙の写真を眺めた。

 吹っ切らなきゃいけないのはわかってるけれど。

 窓の外では、夕焼け空が青空の中でくっきりと輝いていた。

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