あの空ともう一度
七々瀬霖雨
第1話 空、出現
その日は快晴だった。抜けるような雲ひとつない青空。いかにも夏らしい。
だから、発見までにそう時間はかからなかった。
「なん……だ?あれ……」
青い空に、夕焼け空が浮かんでいた。
俺は咄嗟にズボンからスマホを取り出し、カメラを起動してそれをズームする。なにか巨大なシャボン玉のようなものが浮いていて、その中に美しい茜色の夕焼け空が広がっているのだ。巨大というのも、都会の五十階建てビルならすっぽりと収まりそうである。それが太陽の光を水のように反射して、きらきらと光っていた。
いや、何だこれは。
スマホの画面と現実の風景を見比べるも、なにひとつ変わりはない。本当に、昼前の青空に夕焼けの空が丸く浮かんでいる。空が二つある。
嘘だろ。こんな事ありえるのか?てかどうやって浮いてるんだ。自然にできたものならえらいことになるぞ……
ドン、と肩がぶつかる。見れば周りを歩くサラリーマンが迷惑そうに俺を避けて歩いていた。
「あ……すいません」
我に返る。俺も大学に行く途中だったのだ。一枚写真を撮ってスマホをズボンにねじ込み、駅へ向かう。こんな事が起こったからには、今日のゼミは大騒ぎだろう。俺も早く行かないと。あれが消えてしまう前に色々とデータを取っておかなければ。上手く行けば歴史的大発見だぞ!
そうは思うものの、ついつい振り返っては空を見上げてしまう。不可解だが、それ以上に神秘的な光景だった。
「……って乗り遅れる!」
思いを振り切るように走り始める。道すがら、何人かが俺と同じようにスマホを空に向けているのを見かけた。少しほっとする。
大丈夫。あれは幻でも何でもない、本当の現象なんだ。
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