トレジャンの宝の正体
何もかも失った男が、再び大切なモノを失った。
自分の弱さで、幼き頃に家族を――。
そして、大人になってから大切な人を、親友を失った。
「ははは……ははははははは……」
ジニコに庇われ、その血に塗れたときもトレジャンは笑っていた。
とても悲しげに泣きながら。
自分が庇われるような情けない人間だったから、大切な人は死んだ。
なぜ死ぬのが自分ではなかったのか。
子供がいるジニコが生き残るべきだった。
なぜ、どうして、ジニコは庇ったのか。
トレジャンはずっと知りたかった。
それだけが冷え切った心に、
「なぁ……ジニコ……。答えてくれよ……。どうしてジーニャスがいるのに、オレなんかを庇って死んじまったんだ……」
「あら? そんなこともわからないの、トレちゃん」
独特な呼び方、底抜けの明るい女性の声が聞こえてきた。
トレジャンは目を大きく見開き、信じられないといった表情で振り返る。
そこには彼女がいた。
背が低く、茶色い髪で、可愛らしい顔立ち――まるでジーニャスから猫耳を取って成長させたような姿だ。
「ジニコ……」
「なによ、死人でも見たような驚きっぷりでさ。あ、もう死んでたんだった。んふふ」
「ジニコ……ああ、ジニコ……やっぱりここにいたんだな……」
トレジャンは普段の姿からは信じられないくらい涙を流し、少年に戻ったような気持ちで嗚咽を漏らす。
「もう、私の前では泣き虫なんだから。どうして庇ったか知りたいからきたんじゃなく、ただ私に会いたかっただけじゃないの?」
「そんなこと……知るか……」
「庇った理由? そんなのは身体が勝手に動いちゃったから」
「それだけ……なのか?」
トレジャンがずっと追い求めてきた答えはひどく単純だった。
だが、彼女ならそうかもしれないとは心のどこかで思っていた。
「そう、昔っからでしょ。機械の島で海賊を助けちゃったときも。私の考え無しで大変なことになっちゃってさ。あのとき、私が代わりに死んでたらってずっと思っててさ」
「止めろよ……ジニコは悪くない……。悪いのはあのときの海賊――今は白髭と名乗ってアルケイン王国に出入りしているらしいアイツだ……アイツさえいなければ……」
「それじゃあ、トレちゃんを庇って死んでも、悪いのは私を殺した奴だよね」
「だが、オレが弱かったから……」
「ほんっと~に昔から湿っぽいなぁ、もう。いや、だからこそ死と再生の海神ディロスリヴ様に気に入られちゃったのかな?」
トレジャンはもう一つ気配があることに気が付いた。
それはディロスリヴのものだ。
ただ横に立って二人を傍観している。
「トレちゃんの探してた宝っていうのも、私のことだってディロスリヴ様に教えてもらったときは恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかったよ~」
「なっ!?」
「自分一人だと私に縁が無くて会えないかもしれないからって、娘のジーニャスを何とか誘導しようとしているのとか……ちょっと男として情けなくない? もっと自信を持ちなさいよ」
「お、オレは別に……。いや、海神の前で隠し事はできねぇか……。そうだよ、オレはもう一度お前に合いたかっただけだ。フランシスとジニコを失ったあの日から、思い出という宝以外はすべて色あせちまったんだ……」
「情けない人。でも、人間らしいのかもね。死んじゃったらそういうのが薄れていくんだもの」
「ジニコ……」
トレジャンはそこで、初めてジニコの死と向き合えたのかもしれない。
力がフッと抜けて、優しい表情を見せた。
「そうだ、オレも……もう死んじまって無駄かもしれねぇが最期に一つ知りたいことがある」
「うん、なぁに?」
「フランシスは……本当に死んじまったのか?」
トレジャンが新たな海賊団を作った隠された理由。
それは行方不明になったフランシスを探すためだった。
アルケイン王国から私掠船免状を受け取った立場のフランシス海賊団のままでは、アルケイン王国で消えたという謎の部分に踏み込めなかったためだ。
ジーニャスを残したのも、彼女を巻き込まないための配慮である。
アルケイン王国というのはそれほどに強大で闇深いと思っている。
「フランシスはここには来ていないわ」
「それじゃあ……やはりアルケイン王国で何かあって……。ちくしょう……もっと早く知っていれば……」
「こうならなければ――ディロスリヴに気に入られなければ伝えられなかった情報だから仕方がないわよ。でも、神様っていうのはいつも理不尽だけど、一つくらいは奇跡を起こしてくれるものよ」
その言葉を言われた瞬間、ジニコが急激に遠ざかっていくように感じた。
「ま、待て……待ってくれ……オレも……また置いていくな……」
「じゃあね、トレちゃん。私のダメな夫と、イキってる娘によろしくね」
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