リサイクルの美学
無限に再生する黒いバケモノと、無限に造り変える翡翠色のバケモノの戦い。
周囲の破壊を顧みないそれらは、まるで怪獣大決戦のようだった。
このまま続けば海上都市ノアが巻き込まれるだけではなく、どちらかが勝った場合は死の世界か、歪んだ改変世界が勢力を増していくのは想像に難くない。
百の岩を砕き、千の木々を折り、万の身体を粉砕した頃。
翡翠色のバケモノが呟いた。
「飽きた」
その言葉に、意思が戻っていた黒いバケモノ――トレジャンが怪訝そうな表情をする。
「なに?」
「ただ無差別にゴミ箱を散らかすようなことをやっていて、もう見るのは飽きたって言ったんだ」
「小僧……
「こんなリサイクルを勘違いした奴に身体を任せてはおけないからな。いかにゴミを効率よく、美しく、楽しく作り変えるかがリサイクルの美学というものだ」
ノアクルから翡翠色の輝きが消え、元の余裕ぶった不敵な表情になった。
「はは、はははは!! それでこそジーニャスが認めた男だ!! 意思のねぇバケモノと戦うのはつまらねぇと思ってたところだ!」
「退屈させてしまったことを謝罪しなければならないな。お返しに――真のリサイクルを見せてやろう」
ノアクルは右手を掲げた。
周囲から魔力が集まり、光り輝いていく。
これはこの戦場に放出された魔力が尋常では無く、それらをゴミとして見立ててリサイクルしているのだ。
以前、シュレドに放った〝
相手は世界を支える七柱の海神ディロスリヴの力を得ているのだ。
使うエネルギーをもっと減量しつつ、効果的にリサイクルしなければならない。
「その場にある素材を何でも料理するダイギンジョー、ロスを無くして小さな力で大きな魔力を生む方式を教えてくれたピュグ……お前たちのおかげでついに完成した」
「小僧、いや……ノアクル・ズィーガ・アルケイン! ならば……こちらも全力で砲門を開けてやろう……!」
トレジャンは左腕の義手を前に突き出した。
全身に装備している力ある〝宝〟たちが黒く輝きだし、義手へと神気が収縮していく。
「お前のゴミが、オレの宝を上回れるか力比べといこう……。沈め、
死神の吐息の如く、凄まじい神気の輝きが瞬いた。
それはトレジャンを逆光で照らし、悪魔のような影絵を連想させた。
発射された黒き閃光はノアクルへと突き進む。
「ゴミが宝より価値が無いと……誰が決めた?」
ノアクルはフッと笑いながら、黒き閃光に飲み込まれていった。
敗北――そう見えたが、それは違う。
眩しい輝きが、黒を突き抜けてトレジャンの眼前にやってきた。
まるで鳥が雷雲を越えたかのように、どんな存在でも夜空を駆けられるように。
ゴミでもリサイクルをすれば、死神の手をすり抜けられる。
「俺の手の中にあるゴミの価値を決めるのは俺自身だ。お前じゃない、トレジャン!」
「そういうところが気にくわねぇんだよ! まるでアイツ――フランシスみてぇなことを言いやがって!!」
交差する二人の男の視線、それは自らの意地と矜持をかけた火花のようだった。
他人から見ると、とてもくだらないものだろう。
だが、今この場では命よりも大切なものだ。
「ノアクル!」「トレジャン!」
「「お前を倒す!!」」
すでに
色は神々しい翡翠色へと変化していく。
「生と死を超越した我が最強の一撃を受けよ――〝
ただ馬鹿げた個人のプライドを拳に乗せて、全身全霊で解き放つ。
〝
「やるじゃねぇか!! ははははははははは……」
完全に
翡翠色の神気が広がり、再生の力を中和していき、トレジャンの身体はボロボロと崩れ落ちていった。
「まったく……救えないゴミだったぞ、お前は……。だが、出会いが違えば使えるゴミだったかもしれないな」
トレジャンが散っていく様を見て、ノアクルは不機嫌そうな表情を見せる。
勝利したはずなのに、胸の中には一抹の空しさが残った。
そのまま背を向けて海上都市ノアへと戻っていった。
――しかし、密かにトレジャンのチリのような破片が集まり始めていた。
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