神が与えし禁忌能力
トレジャンという男は、機械の島で貴族として産まれた。
機械の島はドワーフが主立った種族で、近年の古代技術の需要により急激に注目されるようになった島だ。
トレジャンの父親は、人間とドワーフの架け橋となるべく送り込まれた大使のようなものだ。
頑固者が多いドワーフが多かったので、最初の頃はとても苦労したらしい。
それでも父親は貴族ということを鼻にかけない優しく誰でも迎え入れるような性格で、少しずつ受け入れられていくようになった。
そのかいもあってドワーフたちとの技術交流も進み、子供――トレジャンが生まれた際には島中のドワーフから祝福されたものだ。
子供時代のトレジャンは、当たり前だが友達にドワーフが多かった。
仲が悪かったというわけではないのだが、人間とドワーフは肌の色が違うなどのレベルではなく、別の生き物のようなものなので、どこか疎外感を覚えることが多かった。
父からは『誰でも優しく迎え入れてあげなさい』という教えを受けていたが、子供というのは反発するものだ。
みんなからは良くされるものの、一人で居ることが増えてきた。
そんな中――ひとりの人間の少女と出会った。
名前はジニコ・ドラ。
貧しく寒い島から、家族と一緒に移り住んできたらしい。
彼女は、機械の島は素晴らしいと語っていた。
技術さえあればどんなよそ者でもきちんと適正な給金を支払ってくれて、違う種族の人間でも受け入れてくれるという。
その考えの礎となったのがトレジャンの父親ということで尊敬しているらしい。
そんな彼女を通じて、トレジャンも父親のことが好きになってきた。
そして、同時に彼女のことも――
だが、その日常は長くは続かなかった。
ある日、砂浜に一人の男が流れ着いていたのを見つけた。
最初は長い黒髭を生やしたガラの悪そうな男を不審がっていたのだが、ジニコが『困っている人は受け入れてあげなきゃ』と言ってきて、結局は説得されてしまった。
男はとても礼儀正しく感謝を述べて、去って行ってしまった。
これでよかったのだろう、とトレジャンとジニコは思っていた。
トレジャンが住んでいる屋敷が略奪されるまでは。
ジニコと遊んで屋敷に帰ったトレジャンは、そこで悲惨な光景を目にした。
内部に入り込んだ大量の海賊たち。
金品を盗むだけではなく、面白半分で家族の命を弄んでいたのだ。
最初にみんなを守ろうとした父親が、頭を斧で割られて呆気なく殺された。
次に子供たちだけはと助けを請うた母親がゆっくり絞殺された。
約束は一瞬にして破られ、妊娠している姉が母親の横で腹を殴られ撲殺された。
家族の死体を前に、生き残っているのはトレジャンだけとなった。
なぜ最後だったのか?
それは以前助けた男――海賊の一味が教えてくれた。
『貴族の子供として幸せに育った優しいお前が、この絶望でどんな顔を見せるのか知りたかった。それが私の幸せだ。ありがとう、私の幸せのためにありがとう』
男はトレジャンの絶望の表情を見て満足したようで、血に濡れた曲刀を振り上げた。
簡単に切り離されたトレジャンの左腕。
四肢すべてを切り落としてから殺すのが趣味らしい。
そのとき――外が騒がしくなった。
どうやらドワーフたちがやってきたらしい。
海賊たちは逃げ出していった。
あとで知ったが、ジニコが異変に気が付いてドワーフたちを呼んできてくれたらしい。
それからトレジャンは変わった。
名工ヴァンダイクには力のみを求めた義手を作ってもらい、自らも強くなるためにフランシス海賊団に入った。
力――海賊に対抗できるのは海賊だけだ。
同時に幼なじみの少女ジニコも原因は自分にあると負い目を感じ、トレジャンと共にフランシス海賊団に入ることとなった。
あの優しかった貴族の子供トレジャンは、もういない。
黒い髭を伸ばし、冷酷非道に振る舞い、宝を収集して力を付けていく。
それでも、船長のフランシスと、幼なじみのジニコと三人でいるときだけは人間でいられた。
長年冒険を共にし、三人揃ったフランシス海賊団は無敵だと思えた。
フランシスとジニコがお互いに惹かれ合っているというのも薄々感付いていた。
トレジャンもジニコのことを異性として好意を持っていたが、親友となったフランシスになら任せられる。
結婚の日も、出産の日も心の底から祝福した。
子供の名前を決めてくれと言われても一度は断ったのだが、渋々ながらトレジャンが決めることになった。
ジニコとフランシスの名前を合わせて、ジーニャス。
二人からは笑われたが、お前の付けた名前なら良いさ、と言われた。
今思えば、このときが人生で一番楽しい頃だったのかもしれない。
それから――フランシスはアルケイン王国へ呼び出され、その帰りに行方不明となった。
ジニコは戦場でトレジャンをかばって死んだ。
呆気なかった。
死に際に何か言おうとしていたが、肺をやられていたようで何も言えずに死んだ。
トレジャンは再び絶望した。
やはり力こそすべてだと思い知り、フランシス海賊団から抜けて、トレジャン海賊団を立ち上げた。
それらが走馬灯のように流れ、消えていった。
***
「さて……これでどうだ……」
頭部を自分で吹き飛ばしたトレジャンだったが、ノアクルはまだ油断していなかった。
この世界を支える七柱の海神というのは、それくらい神話に名高い存在なのだ。
その影響を受けた人間も超常的な
首が無くなったトレジャンは一瞬だけ倒れそうになるが――
「不死身か……」
トレジャンは踏ん張り、頭部を少しずつ再生していた。
「あ……ああ……」
元通りになったトレジャンの眼には意思がなく、ただの怪物になっているかのように見えてしまう。
ノアクルに対して黒い影を伸ばしてきて、全身を締め上げ始めたのも『ただそこにいるから』という条件反射だろう。
「クソ……中途半端に頭を潰してしまったのがマズかったか……。あとはもう再生する間もなく全身を消し飛ばすくらいしか手段がないのか……?」
伸びてくる黒い影によって、ノアクルは首を絞められ酸欠の症状を起こし始めていた。
迫り来る死を感じる。
頭が真っ白になり、考えるということができない。
そして、意識を失って身体がだらんと弛緩してしまった。
「力なき……者は……死……ね……」
トレジャンはそう言うと、一際太い黒い影を右腕から作り出し、それでノアクルの心臓を突き刺そうとした。
トドメを刺されそうなノアクルだったが――そのとき。
「スキル【リサイクル・
黒い影は弾け飛び、それを生み出していたトレジャンの腕もミンチになっていた。
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