黒髭のトレジャン
足元がゴツゴツの岩場なので、元の世界へ戻ってきたのだろう。
詳しい現在地はどこかわからないが、散らばった大量の骨と小さな祭壇がある。
どこか初めてアスピと出会った場所を思い出してしまう。
その手前に立っている身長の高い偉丈夫、全身にジャラジャラと宝を身につけた義手の男――トレジャンが蔑んだ目で見てきた。
「人間ってのはくだらねぇ……。誰も彼もが過去の亡霊に囚われてちまってる。部下の大半もアレに捕まる役立たずだ」
「はっ、俺たちのような人間の方がおかしいかもしれないぞ。死者を悼むのは普通のことだしな」
「そうか、なら……テメェも死者になって悼まれな……」
トレジャンは自らの力を見せつけるかのように、左手の義手を眼前に持って来た。
義指を順番に一本一本握り込み、金属音をさせながら鉄塊のような拳を作る。
「ノーサンキューだ。さすがにすぐ向こうへ戻ると格好が付かないからな。数十年後までは遠慮させてもらおう」
トレジャンは『つまらない冗談だな』と笑うでもなく、ただ睨み付けながら左手の義手で殴りかかってきた。
その軌道は迷いなく、ノアクルへ一直線だ。
以前の経験から、腕で防御しようとしたら骨が砕けるような威力だろう。
あのスパルタクスがそうなったのだから。
回避も二撃目、三撃目と攻撃を重ねられれば危うい。
ならば――
「スキル【リサイクル】――対象は骨だ!」
地面に散らばっていた大量の骨がせり上がり、壁となってノアクルの盾となった。
「骨か、たしかに人体の中では最も硬い。だが――オレの前では脆すぎる」
粉砕される骨の壁。
その向こう側から、勢いを少し殺されただけの拳が見えた。
「強いな。だが、それくらいは予想内だ」
二枚、三枚と次々に骨の壁がせり上がってきた。
次々と粉砕されるが、ノアクルも同じペースで作り出していく。
「随分と粘り強いスキルのようだな」
「まぁ、少なくともお前が疲れ果てるくらいは――」
「オレのスタミナ切れを狙おうとしていたのか? ククク……それは無駄だ」
トレジャンの身体にジャラジャラと付けられている宝の一つが輝き、身体中へと暖かな光が広がっていった。
「集めた宝たちがオレを強化してくれる。疲れなんてもんは存在しねぇよ」
「……なるほど、滅茶苦茶な奴だな」
ノアクルの方はというと、さすがに無限にスキルを使い続けることはできない。
このままいたちごっこをしても不利になるのはノアクルだが、骨の壁を消すと負けるのもノアクルだ。
それなら――と攻防一転させる。
「これはどうだ!」
ノアクルは骨による槍を何本も作り出して、それをトレジャンへ突き刺した。
否――刺さっていない。
「なに……!?」
「言っただろう、集めた宝たちがオレを強化してくれるってなぁ」
トレジャンの身体が鈍色になり、強度が鉄のように上がっていた。
それによって骨の槍を砕いたのだ。
「攻撃も、防御も、スタミナも宝で補っているのか」
「小僧、その通りだ。お前のゴミをどうにかするだけのゴミスキルと違ってな」
「それは――これを食らってから言うんだな!」
ノアクルは骨の槍に潜ませていた、ドワーフ特性のインゴッドにスキル【リサイクル】を使った。
「いつの間に!?」
ドワーフの技術によってかなりの硬度を持つインゴッドは槍へと姿を変え、骨とは比べ物にならないくらいの威力を叩き出した。
トレジャンの太股へ深く突き刺さる。
「オレの防御を抜くだと……!?」
「ふっ、なかなかに良いゴミだろう?」
ちなみにヴァンダイクにも同じことを言ったらしこたま怒られたが、ノアクルとしては賛美の言葉だったので解せなかった。
「その傷の深さではもう歩けないだろう。諦めろ、トレジャン」
「諦める……? 何を言ってるんだ。この程度の傷……〝死と再生の海神ディロスリヴ〟の力があれば問題ないだろう?」
トレジャンが槍を抜いたあと、傷痕が黒霧となって消えてしまった。
「トレジャン……やはりお前が狙っていた〝宝〟というのは神の力か……」
いつの間にかトレジャンと祭壇は、黒霧で繋がっていた。
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