第七章 死者の島
いざ行かん、約束の地へ
「さて、これで準備は整ったな」
艦橋から海上都市ノアを見下ろしながら、ノアクルがそう言った。
このディロスリヴ海にやってきてダイギンジョーと出会い、問題だった海上の食生活は改善された。
住民たちのやる気がアップして、全体的な効率も良くなってきているし、食による健康も保たれている。
そして大型の魔導エンジンの修復・調整も終わった。
大量の鉱石を使った海上都市ノア全体の金属補修なども進み、どんな過酷な環境でも越えていけるだろう。
あとはノアクルの一言を待つだけとなっている。
「待たせたな、出発だ! いざ行かん、約束の地へ!」
「判明した死者の島へ進路を取ります!」
「ジーニャスは間に合わなかったが、土産話は持ち帰ってやるさ」
こうしてディロスリヴ海最後の旅が始まった。
***
――とは言っても、船旅というものは目的地にワープしてすぐ着くようなものでもない。
大型の魔導エンジンをフル稼働させればとてつもないパワーが出るのだが、それは常時やっていいものではない。
人間で言えばマラソンを全速力で走るようなもので、無理をすれば海上都市ノアがバラバラになるような危険なシロモノだ。
なので、程々の速度で進み続けている。
もちろん、以前と比べれば通常運行の速度もかなり上がっているし、風のない日でも問題ない。
座学から逃げ――もとい暇を持て余したノアクルは、トレジャンのことを聞くためにフランシス海賊団にいた者たちを集めた。
それは古株の海賊だったり、仕事終わりで酒を片手に持っているダイギンジョーだったりだ。
ちなみにダイギンジョーは自分でツマミを作ってきて、作戦室に広げていた。
ノアクルは酒を飲まないが、単品で食べても美味いのでヒョイパクと口に入れながら質問した。
「もぐもぐ……トレジャンって、結局どんな奴なんだ?」
「どんな……ですかい。うーん……」
ダイギンジョーは酔いすぎないようにマタタビ酒をチビチビと飲みながら悩み、その横から古株の海賊たちが次々と声をあげた。
「冷酷非道!」
「人情より実情!」
「宝にしか興味がない非人間!」
「なるほど……たしかにそんな印象だったな……」
ノアクルから見ても大体同じように感じた。
いや、とダイギンジョーが遮る。
「まぁ、一見するとそうでしょうが、意外と奴も人間くさいところはありやすぜ」
「人間くさいところ?」
「普段はあんなですが、フランシス船長やジニコと一緒にいるときは多少ですが笑みを見せることもありやした」
「フランシス・ジニアス……は伝説の海賊でジーニャスの父親だよな。ジニコ・ドラはジーニャスの母親……でいいんだよな?」
「へい。二人は結婚してジニコは、ジニコ・ジニアスという名になりやしたが」
「想像できないな、あのトレジャンが仲間へ笑みを見せるところなんて」
「トレジャンとジニコが、フランシス海賊団にやってきたときはまだ子どもでしたからねぇ。そのときのフランシスも若かった。旧友……とでも言いやすか……。あの言葉少なめのトレジャンでも、確かな信頼関係がありやしたね」
「そんな男がどうして、フランシス海賊団から離れて、今の傍若無人な海賊になってしまったんだ?」
「それは……」
ダイギンジョーは言いにくそうにしている。
それを見かねて、古株の海賊が声をあげた。
「タイミング的にフランシス船長とジニコさんが結婚して、ジーニャス船長が産まれて、ジニコさんが亡くなった辺りで海賊団から離れた! トレジャンの野郎、大変なときにいなくなりやがって!」
「まぁ、そうさなぁ……」
ダイギンジョーも一応は認めているので、そのタイミングで何かあったのだろう。
「そのあとにフランシス船長がアルケイン王国に呼び出され、その途中で死んじまって、済し崩しにフランシス海賊団も終わりを迎えちまった……」
「おめぇら、フランシスは死んだと決まったわけじゃねぇだろ……!!」
「す、すみません、料理長……」
「そこからは俺も知ってるマリレーン島へと繋がるわけか」
ノアクルとしては多少、頭の整理もできた。
しかし、トレジャンの心の奥底にあるものはまだわからない。
ダイギンジョーは何かを隠している感じもあるようだが、それは無理に聞こうとも思えない。
彼には彼なりの仁義があるのだろう。
『殿下、そろそろ死者の島が見えてきますわ。いい加減に戻ってきてください!』
船内にローズの怒りの呼び出しアナウンスが響き渡り、ノアクルはその場を離れることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます