幕間 トレジャン海賊団本隊
ディロスリヴ海に浮かぶ大きな黒い船があった。
禍々しい装飾が施されていて、まるでおとぎ話に出てくる呪われた海賊船のようだ。
その船はクィーン・ドラコ・リベンジ。
意味は『ドラゴンの女王の復讐』とも読み取れる。
これこそがトレジャン海賊団の本船だ。
内部は収集された宝が飾られており、貴族の屋敷よりも豪華に見える。
それもあって貴族が宝を狙って賞金稼ぎの船を送り込むこともあるのだが――
「見つけたぞ! 賞金首のトレジャン海賊団だ!! しかもクィーン・ドラコ・リベンジと言えば動く宝物庫! オレたちだって少しはおこぼれに預かれるぜー!!」
もはやどちらが海賊かはわからないが、私掠船免状を持っていない海賊などただの犯罪者だ。
道行く山賊を倒して金を奪ったとしても文句を言われないように、大海原を進む海賊を倒して宝を奪ったとしても問題はない。
ただし、倒せればの話だ。
「こっちの帆船は高速仕様だ! 逃げられると思――」
「ひっ、なんだありゃ!? クィーン・ドラコ・リベンジがすげぇ速度を出してる!? それも方向はこっちだとォ!?」
「風の穏やかな日なのにどうやって……」
「い、今はそんなことはどうでもいい!! スピードがここまで違うと戦う以前の問題だ!! 一時撤退だ!!」
賞金稼ぎ船の中には冷静な判断ができる者もいたようだが、トレジャン海賊団相手には遅すぎたようだ。
いつの間にかトレジャン海賊団の本隊――他の船も周囲から集まってきていた。
身動きができなくなった賞金稼ぎの船、それをクィーン・ドラコ・リベンジの甲板から見つめる黒い髭を生やした男――トレジャンが退屈で不機嫌そうに呟く。
「あの船からはお宝のニオイがしねぇな……」
横に控えていたコイコンが静かに指示を仰いだ。
「沈めさせますか……? トレジャン船長」
「いや、直接オレがやる」
「怪我をしてなきゃアタイが乗り込んでやったのにぃ~」
まだノアクルにやられた傷が痛むジュエリンも口を挟んできたが、トレジャンは言葉を続けた。
「やっと最高のお宝が死者の島で拝めると考えると、どうにも昂ぶってしまってな……」
トレジャンは左腕の義手を前に突き出した、それも言葉とは裏腹に無表情のままで。
全身に装備している力ある〝宝〟たちが輝きだし、義手へと魔力が収縮していく。
「ふんっ、宝を持っていないゴミは海の藻屑となってもらおう。沈め、
竜の吐息の如く、凄まじい魔力の輝きが瞬いた。
それはトレジャンを逆光で、竜……いや、悪魔のような影絵を連想させた。
「ひぃぃぃいいいい!?」
木製の賞金稼ぎの船は爆散した。
船とは呼べないくらいのバラバラさで、文字通り海の藻屑となってしまったのだった。
「お見事です、トレジャン船長」
「つまらねぇ、弱すぎる。やはり〝宝〟を持たぬ者はゴミだな。ノアクルの奴は〝宝〟を持っていてくれよ、オレを興ざめさせてくれるな……」
トレジャンはバッとマントをひるがえし、トレジャン海賊団本隊へと指示を出した。
「野郎共、南南西へ舵を取れ! 目的地は、もちろん死者の島だ! アルケイン王国の元第一王子様を歓迎する準備をしろ……!」
「「「「Aye-aye,cap’n(トレジャン船長のご命令のままに)!!」」」」
数百人の海賊たちが荒々しい声をあげて、本隊は死者の島へと舵を向けた。
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