ノアクルVSジュエリン
「あ、貴方はイケメンのノアクル! どうしてここへ!? ま、まさかアタシに会いに来て――」
「顔面踏まれた直後にお前、ある意味すごいな……。さっきからピュグを助けに来たと言ってるだろうが」
どうしてノアクルがここにいるかというと、ピュグがいなくなったあとに彼女を追いかけることにしたのだ。
ただし、走っても時間がかかるので空中からだ。
幸いなことに金属ゴミが多かったので、巨大なバネのような物をスキル【リサイクル】で作って、一気にここまで飛んできた。
もう空に放り出されるのも慣れたものである。
「あら、アタシを差し置いて他の女に目をやるとか。どうやら王子様にもお仕置きが必要そうね?」
「まったく、面倒臭い奴だな」
今、ノアクルとジュエリンの戦いが始まろうとしていた。
周囲にいた海賊たちは、ジュエリンの攻撃に巻き込まれないように退避している。
彼は戦闘になると見境がなくなるからだ。
「こちらから行くわよぉ! つまらないから一発では倒れないでね、王子様ぁん!」
ジュエリンはいつものように小粒の宝石を指で弾き、ノアクルに飛ばしてきた。
当たる直前に爆発。
これでは回避も成功しにくい。
単純にして初見殺し、ジュエリンの強みだ。
「一発で倒れるはずないだろう。以前も防いだからな」
「あら、そういえばそうだったわね」
ノアクルは、ディーロランド城でジュエリンと遭遇したときに宝石を防いでいる。
今、ゴミを使った盾で同じように。
爆風と破片が主なダメージなので、直接肌に触れなければ平気だ。
「じゃあ、これはどうかしらねぇ……!」
「ほう?」
ジュエリンが見せてきたのは、中玉の宝石だった。
クラブの頭部を一撃で吹き飛ばす威力がある。
ノアクルはその場面を直接は見ていないが、クラブのダメージ痕から何となく察することができた。
(このゴミの盾では防げないか)
瞬時に判断して、別の方法を思案する。
だが、敵は待ってくれない。
「アタシの美しさの前に散りなさい!」
ジュエリンは中玉の宝石を放ってきた。
爆発の位置を変化させることができて回避も難しいし、先ほどより遙かに高い威力だ。
ただ単純に強い。
戦場においてそれは、何よりも優れている。
ノアクルのスキル【リサイクル】の場合は、確かに強いが〝ゴミ〟という条件が無ければ何もできない。
今も手持ちの小さめのゴミがあるだけで、それを使って中玉の宝石を防ぐのは難しいだろう。
それなら――
「スキル【リサイクル】」
新たなゴミ――中玉の宝石を対象とした。
「そのゴミ、もらったぞ」
「なっ!? アタシの宝石をゴミですって!?」
「ふんっ、投げ捨てたのなら何であろうとゴミだろう」
中玉の宝石は方向を変え、ジュエリンへとはじき飛ばされていく。
回避不可能、爆発。
「や、やったですますか!?」
「いいや、ピュグ。まだだ」
ノアクルは爆煙が晴れる前に感じ取っていた。
まだ向こう側の闘気が萎えていないのだ。
「ふぅん……やるじゃない。でもね……その程度じゃアタシは倒せないわよぉ」
「防御結界か」
ジュエリンが身につけている宝石たちが輝き、光の膜を作っていた。
それで爆発を防いだのだろう。
「その通りよ。宝石による防御結界。それをたった一つの宝石のエネルギーによって打ち破るのは無理よぉん!」
「なるほど、厄介だな」
「さぁ、楽しい楽しい一方的なデートの続きをしましょうねぇ!」
ジュエリンは中玉の宝石を飛ばしてきた。
(随分と単調な攻撃だな……それしかできないのか?)
そう思いつつ、ノアクルは先ほどと同じように対処しようとしたのだが――
「甘ぁいわよ!! 爆破!!」
「くっ!?」
リサイクルを使われる前に爆破してきた。
ノアクルは爆風に吹き飛ばされ、ダメージを負ってしまう。
「あら、まだ平気っぽいわねぇ。警戒しすぎて有効範囲外で爆破しちゃって威力が落ちたかしら?」
「ははは、充分に痛いぞ」
「それなら何回でも繰り返してあげるわねぇ」
「大切な宝石をそんなに消費していいのか?」
「美しいモノは壊れるときが一番美しいの。きっと、アナタも美しいんでしょうねぇ……」
「どうやら趣味が合わないようだな。俺は壊れて、そこからどうするかが美しいと思っているからな」
「んもう、いけずぅ! 発言までイケメンで好み!」
ジュエリンは唇をとがらせ拗ねながら、中玉の宝石を次々と飛ばしてきた。
ノアクルはそれをギリギリで回避、爆風でダメージを受けながらも耐え続けた。
(さてと、これは予想外にマズいな)
下手に他のゴミでどうにかしようとしても、単純に高い火力と、防御結界がある。
その二つをどうにかしなければ勝ち目は無い。
(こうなったらぶっつけ本番で試してみるか)
ジュエリンが中玉の宝石を飛ばしてきた。
それに合わせて、ノアクルが前方に向かって走る。
「何度も撃たれてきたからタイミングは見切った。スキル【リサイクル】!」
「なっ!? 突っ込んできて爆発する前に!? でも、それくらい防御結界で防げば――」
「新たなスキルだ、初めてを食らえることを光栄に思うが良い……【リデュース】」
ノアクルはぶっつけ本番で新スキルを試す。
それはピュグからヒントを得たもので、少ないゴミで如何に多くの結果を出すかというものだ。
今回でいえばダメージ増幅の効果を狙う。
「こんなの防げる……防げない!? ギャアアアアアアア!!」
リデュースによって強化された大爆風ダメージで、見事に防御結界を貫通することができた。
ジュエリンは自らの宝石の威力を、身をもって味わう事になった。
彼は白目を剥いて気絶してしまったようだ。
これで死なないとは、さすがにベテランの海賊なので頑丈らしい。
「ふむ、成功はしたが……まだ使い切れていないな」
ノアクルはスキル【リデュース】に納得がいっていなかった。
コツを掴めばさらなる力を発揮できると感じていたからだ。
「うーむ、練習時間が必要か? 適切な方向性もピュグから話を聞いた方がよさそうだな……。気功のように身体に装着するタイプもどうなるか……。これは面白そうだ」
色々と考えを巡らせるノアクルだった。
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