古代人型兵器クラブVSトレジャン海賊団

 ヴァンダイクが寝付いたあと、ノアクルたちは今後どうするか話し合っていた。


「すぐ行くのは得策ではないのぉ。警戒を固めているはずじゃ」

「たしかに海賊は実戦に慣れてますからねぇ。あっしだったら全戦力を持って警戒しまさぁ」

「それなら今度こそ夜に強襲するか?」

「警戒されていても、まだその方がいいじゃろうて」

「じゃあ、その方向で夜まで待機――」


 そのとき、家のドアが乱暴に開けられてドワーフ技術者が急いで入ってきた。


「た、大変だ!! アーマードワーフ家の孫娘が、修理した古代人型兵器と一緒にトレジャン海賊団のところへ行ってしまった!!」

「……は?」


 ノアクルたちは状況を理解できなかった。




 ***




「うわああああああああ!! 止まるですますううううう!?」


 ピュグを背中に乗せたクラブは爆走しながら、トレジャン海賊団の本拠地に突撃していた。

 ようやくピュグの指示が聞こえたのか、ピタッと止まった。


『了解、待機モードに移行します』

「ふぅ……これで一安心……」


 そこでピュグは気が付いた。

 周囲が海賊たちに囲まれていることを。


「あ……」

「こ、こいつ……さっきも来ていたアーマードワーフ家の奴だぜ……」

「もうカチコミを仕掛けて来やがった……」

「舐めやがって!! 全力で海賊流の歓迎をしてやるしかねぇよなぁ!!」

「ひぃぃぃぃ!?」


 血気盛んなトレジャン海賊団たちに逃げ道を塞がれていて、ピュグは悲鳴を上げてしまう。

 この状況でご丁寧にお話しして切り抜けられるはずもないし、取れる手段は一つしか無い。


「こ、こうなったら……」


 海賊流の歓迎を受けるなら、ドワーフ流のお礼・・をするしかない。


「クラブ、戦闘モード起動ですます! よく考えたらヴァンダイクお爺ちゃんもやられたし、仕返しは当然なので!!」

『戦闘モードに移行します』


 クラブは手に持った棍棒を構える。

 金属の骨組みが見える人型の機械は不気味さすら感じ、周囲の海賊たちもざわめいた。

 だが、クラブはまだ戦闘を開始しない。


「クラブ?」

『マニュアルかオートを選択してください』

「えーっと、マニュアルはたしか……魔力と同期させて精密な指揮を実現させるとか……。うーん、マニュアルで!」

『了解、マニュアルモードで戦闘を開始します』


 瞬間、ピュグとクラブの意識が同期した。

 立ちくらみのようなモノを覚えつつ、クラブの身体を動かそうとした。

 しかし、想像以上に重く、鈍く、生身の肉体と違う違和感に四苦八苦してしまう。

 それを見て周囲のトレジャン海賊団たちが笑った。


「ギャハハ! なんだぁ、そのお人形。壊れてるんじゃねーの?」

「ジュエリン様が探してたアーマードワーフ家とやらも大したことねぇなぁ!」

「こ、これは私ちゃんが下手なだけで……うぅ……恥ずかしいですます……。マニュアル解除でオートに……」

『了解、オートモードで戦闘を開始します』

「ギャハハハハ……ハァッ!?」


 突如、クラブが突進して棍棒で海賊を殴り始めた。

 その一撃は強力で、海賊が数メートル転がって行ってしまった。


「な、なんだコイツ!? ウギャッ!?」


 クラブは動きを止めずに次々と殴り飛ばしていく。

 オートで動く機械なので、休むこともしないし、躊躇することもしない。

 ただひたすらに排除対象を処理していくだけだ。


「やべぇぞ!! もう半分くらいやられちまった!! 殴っても動きを止めねぇ!!」

「か、勝てる! 私ちゃんだけでトレジャン海賊団を機械の島から追い払える! どうだ見たか! ドワーフたちが協力したら、これくらいできちゃうですます!!」


 ピュグは勝利を確信した。

 たしかにこのまま行けば、勝つことは容易かっただろう。

 ただし――


「あらぁん、楽しそうなことをしてるわねぇ」

「ジュエリン様!!」


 この島で現在、一番強い海賊がやってこなければの話だ。


「そのおもちゃを試してあげるわぁん、ちょっと大きな宝石ちゃんでねぇ」


 ジュエリンはいつもの小粒の宝石ではなく、二回り程度大きな中玉を指で弾いた。

 サイズはピンポン球くらいだろうか。

 それがクラブの頭部に激突し、爆発した。


「あ、あぁぁ……そんな……強すぎるですます……」


 クラブは頭部を失い、その場で崩れ落ちていた。

 唯一の味方を失い、ピュグは敵の中で一人取り残されてしまった。


「へっ、うちのジュエリン様に勝てる奴なんているはずないっつーの! ……さて。コイツ、どうします? 散々好き勝手に暴れやがって」

「そうねぇ……アーマードワーフ家の技術者としては必要だけど、それはそれとしてお仕置きが必要ねぇん」


 ジュエリンは視線をピュグに向け、宝石を指の上に載せた。

 ピュグは怯え、震え、か細い声を出しながら、上を向いてペタリと座り込んでしまった。


「や、やだ……止めて……助けて……」

「あらぁん? 海賊に助けてって言っても、そんなのが通じるはずないじゃない」


 それは違った。


「助けて……王子様ッ!!」

「は? 王子さ――ブギュッ!?」


 頭上から飛んでくるノアクルに対して助けを求めていたのだ。


「また何か踏んだな。まぁいい。助けに来たぞ、ピュグ」

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