トレジャン海賊団の本拠地偵察

 ノアクル一行は機械の島の港町にやってきていた。

 ブリキのおもちゃで作られたような光景。

 他の島と違って古代技術の遺跡が町並みに活かされていて、見ているだけで鉄の匂いが漂ってくるようだ。

 町の住人はほとんどがドワーフで、人間や獣人などは少数派となっている。

 そのためにウワバミが多いドワーフ用に酒場が多く見受けられ、ここが彼らの世界なのだと実感する。


「そして、俺たちは部外者か」

「こら、ノアクルよ。あまりキョロキョロするでない」


 ノアクルたち全員がトレジャン海賊団に見つかったらマズい存在なので、今回はヴァンダイクが用意してくれた変装を施している。

 具体的には身体を覆うローブ、頭をスッポリ覆うフード、付けヒゲや付け耳だ。

 正直、ないよりマシ程度なので目立たない方が良い。


「ふっ、俺の神々しい雰囲気が漏れ出たら気付かれてしまうかもしれないな」

「さすが王子様ですます……!」

「いや、あっしが思うに王子だからってこんなヤバい発言は普通しないかと……」


 個性的過ぎる面々に、ヴァンダイクは眉間にシワを寄せてしまっている。

 彼らはあまりにも場慣れした人間か、ただの馬鹿にしか思えないのだろう。

 そんな中、道行く一般ドワーフたちの会話が聞こえてくる。


「ったく、アーマードワーフ家の奴らが素直に引き受けないから、他の技術者がトレジャン海賊団に捕まっちまって……」

「役に立たない技術を研究するゴミのくせに、本当に迷惑な奴らだよな……アーマードワーフ家」

「ああ、まったくだ。金さえ稼げりゃ、技術の向上なんて必要ないだろ」


 それを聞いたピュグは落ち込み、ヴァンダイクは拳を強く握って堪えていた。

 ノアクルはつまらなさそうな表情でヴァンダイクに問い掛ける。


「おい、言われてるぞ? いいのか?」

「……慣れている」

「そうか」


 道行くドワーフは食べていた串焼きの串を、ゴミとして道ばたに投げ捨てていた。

 少し遠くにゴミ箱があるのに、それをしてしまうのはマナー違反だ。

 ノアクルはそれに目を向ける。


「スキル【リサイクル】」


 串は空中で方向を変えて、道行くドワーフの尻に突き刺さっていた。


「痛ぇ!?」

「ふはは、ゴミはゴミ箱へ、だ! そうでないと俺が集めにくいからな!」

「馬鹿、お主ぃぃぃ!!」


 全員でノアクルを引っ張り、気付かれないように路地裏へと連れ込んだ。


「し、信じられん……何をやっているんだ……ノアクル……」

「ふんっ。お前たちが怒らなくても、俺が怒りたいのなら仕方がないだろう? これは俺の問題だ」

「何の関係もないのに首を突っ込んでどうする」

「ヴァンダイクの爺さん、耄碌もうろくして目でも見えなくなったか? この俺の手の届く範囲にいるのなら、俺の臣民のようなものに決まっているだろう」

「何という奴だ……コイツは……」


 ヴァンダイクは呆れて物も言えないという感じになっているが、ピュグは黙ってペコリと小さくお辞儀をした。

 それを横目にヴァンダイクは機嫌が悪そうに言う。


「だ、だが……孫娘のためにそうしてくれたのは感謝しなくもないが……」

「ハッハッハ! ジジイのデレは気持ち悪いぞ!」

「うっさいわい!」


 一行は気を取り直して、今度こそ目立たないようにトレジャン海賊団が本拠地にしている港へと向かった。

 船や海賊たちが見えるのだが、何か少なく感じてしまう。


「今はトレジャン率いる本隊がいない」

「なるほど、大型の魔導エンジンを奪うなら最適なタイミングだな」

「ほら、お目当てのブツはあそこだ」


 開かれた大きな倉庫のスライド扉から、大型の魔導エンジンが見えた。

 海上都市ノアにある普通の物とは違って、かなり作りが違うようだ。

 ピュグがこっそりと解説をしてくる。


「実は分類的には大型とついているだけですが、たぶん古代では役割が大きく違ったはずですます。現代でたとえるのなら船――普通の魔導エンジンが普通の船用だとしたら、大型の魔導エンジンは軍艦に取り付ける用の超ハイスペックで機密だらけの逸品ですます」

「なるほど。俺と、俺以外の人間みたいな分類か」

「さすがノアクルさん様……!」


 もはやピュグ以外からスルーされていて、他の面々は倉庫の中を観察していた。

 大型の魔導エンジンは二基あり、その両方にドワーフの技術者がいるようだ。

 その奥に一人の男がいた。

 ケバい化粧にジャラジャラとした派手な宝石――ジュエリンだ。


「あらあらぁ、まだ直せないのかしらぁ?」

「こ、こんなの直せるはずねぇ!」

「それなら、あんたたちはいらないゴミねぇ」


 ジュエリンは冷酷な笑みを見せた。

 細く長い指で宝石を弾き、物凄い勢いまで加速させる。

 それがドワーフの技術者の脚を貫いた。


「ギィィアアアア!?」


 反対側の大型の魔導エンジンにいた技術者は怯えながらも、ゴマをすりながら言う。


「へ、へへへ……これだからソードワーフ家の奴らは……。で、でもご安心ください。我がシールドワーフ家なら――」

「あらぁん、知ってるわよぉ。そっちも全然作業が進んでないってことはねぇ」


 ジュエリンは同じように宝石を弾き、ドワーフ技術者の脚を貫いた。


「ヒギィィィイイ!?」


 それを遠くで見ていたアスピとダイギンジョーは冷静に観察していた。


「まぁ、技術を高めようとしていたアーマードワーフ家をないがしろにしていたんだから自業自得な面もありやすねぇ」

「そうじゃな。人も機械も、技術というのは歩みを止めればそこまでじゃ」


 ノアクルとしても、あまり助けたいゴミ……もとい相手ではない。


「さて、どうする? って、おい!?」


 気が付いた時には、ピュグとヴァンダイクが走り出していた。

 ジュエリンがドワーフたちを始末しようとしているのにいち早く気が付いたのだ。

 ノアクルは理解していなかったが、二人はドワーフたちを恨んでいるわけではなかったのだ。

 あんな扱いをされていても、それでもまだ助けるべき仲間だと思っていたらしい。


「それじゃあ、役立たずのゴミドワーフ共は殺しちゃうわよ~ん……って、ん?」


 宝石を撃ち放とうとした直後にジュエリンは、走ってくるピュグとヴァンダイクに気が付いた。

 そのままターゲットを二人に移して宝石を撃ち放とうとしていた。


「お仲間が助けに来たのかしら? ジャマだから死んじゃいなさいねぇ」


 ノアクルはしまったと思った。

 ピュグとヴァンダイクが完全に二手に分かれてしまっている。


「くそっ!! いくら俺でもここまで離れた二人を同時に助けられないぞ!!」

「オレはいいから孫娘を――ピュグを助けろ!」

「ヴァンダイク……お前……!? クソッ、スキル【リサイクル】……!」


 ノアクルは、猫の島で手に入れていた金属鉱石をピュグの方へ投げ放った。

 眼前で盾のように形を変えて、地面に複数のトゲを刺して固定した。

 ジュエリンの宝石はかなりの威力だったらしく、爆発に近い甲高い音を出して砕け散った。

 ピュグは無傷だった。

 だが――


「ヴァンダイクお爺ちゃん!?」


 ヴァンダイクは倒れていて、そこから大量の血が流れていた。

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