トレジャンと義手と過去
「トレジャンがこの島で育ち、その義手をヴァンダイク……あんたが?」
「ああ、それなりに奴のことは知っている。ろくでもねぇ奴の過去をな」
***
貴族の家系に生まれ、なに不自由なく育ったトレジャン。
性格は理知的で、誰にでも優しかった。
ヴァンダイクの家にもよく遊びに来て、とても礼儀正しい子だったというのを覚えている。
ある日、トレジャンは海から流れ着いた一人の男を助けた。
男はとても感謝し、去って行った。
しかし、男は海賊だった。
大勢の海賊を引き連れてトレジャンの家を襲い、両親や姉を殺し、略奪し、トレジャンの左腕をも奪った。
瀕死の重傷だったがなんとか生き残り、左腕もヴァンダイクが義手を付けてやった。
そこからトレジャンは人が変わった。
冷酷非道な性格になり、誰に対しても心を見せない。
唯一近くにいられたのが、幼なじみの少女くらいだろうか。
その少女と共に、フランシス海賊団に入って島を去ったという。
――話を聞き終わった頃には、ノアクルたちは食事を平らげていた。
「なるほどな、最近になって奴は古巣へ舞い戻ってきた。ということか……今は不在らしいが。それと話に出てきた幼なじみの少女というのは、フランシス海賊団でどんな感じだったんだ? ダイギンジョー」
「それは……ジーニャスのお嬢ちゃんにも関わることなんで、あっしからは何とも……」
「そうか。現在、トレジャン海賊団にいないのなら話す必要はないな。忘れてくれ」
フランシス海賊団古株のダイギンジョーが言い淀むということは、何か複雑な事情があるのだろう。
それがジーニャスのためというのなら、律儀で好感の持てる猫――もとい男だ。
古代技術の品々を確かめ終えたヴァンダイクが真剣な表情で話しかけてくる。
「トレジャンの左腕を作って、奴を戦えるようにしちまったのはこのオレだ。責任がある。奴を倒すってんなら、協力させてもらう」
「助かる。大型の魔導エンジンをスキル【リサイクル】で修復したあと、きちんと動くように調整してもらおうと思ってたからな」
「それじゃあ、大型魔道エンジンがあるトレジャン海賊団の根城辺りを案内してやる」
「ああ、頼む――が……」
ノアクルは窓の外に視線をやった。
そこには聞き耳を立てているピュグが見えた。
「ピュグはどうする? 興味津々そうだが……」
「……もちろん置いていく」
慌てたピュグは作業場に入ってきた。
「ま、待って!! 私ちゃんも行きたいですます!」
「正気か? オレと違って自分の身一つ守れない奴が、海賊の根城付近に行くなんて……」
「ヴァンダイクお爺ちゃんは黙ってて! というか私ちゃんが一人で残ってる方が危ないですます!」
「そりゃあ……そうだが……」
「だから、一番良いのはつよ~いノアクルさん様と一緒に行動することだと思いますです! 王子様は空中殺法の使い手!」
「む、むむぅ……」
どうやらヴァンダイクは孫娘には弱いようだ。
好奇心が強いこともあって、彼女を止めるのは難しそうである。
「そうだな。俺から離れないのならピュグを守ってやることはできる。だが、交換条件だ」
「交換条件?」
「俺がスキル【リサイクル】で直したものを、どうやって調整するのか教えてくれ。ゴミ好きとしては興味がある」
「えっと、ゴミ好き……? ゴミかはわかりませんが、調整は教えるですます! ヴァンダイクお爺ちゃん、いいよね?」
「ちっ、好きにしろ。その間に偵察の準備でもしてくるぞ」
そこからノアクルは、ピュグから様々なことを教わった。
ノアクルとしては古代技術の詳しいことは理解できなかったが、概念的なものは伝わって来た。
「ゴミとゴミの組み合わせを工夫して、ロスをなくし、小さな魔力で大きな力を生み出す方式か……」
「いえ、ゴミじゃないですます」
「なるほどな! この考えは使えそうだ! 恩に着るぞ! やはりゴミは最高だ!」
「話を聞いていないですます……どういたしまして……」
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