アーマー打ちの家系
「どこの馬の骨ともわからん奴を家にあげられるか! 帰れ!!」
ピュグの家に到着したのだが、屈強なドワーフの老人に門前払いを食らってしまった。
「ちょ、ちょっとヴァンダイクお爺ちゃん!? この人たちは私ちゃんのことを助けてくれましたですます!!」
「ふんっ!! それなら毛布を貸してやるから、そっちの作業場で勝手に寝るんだな!!」
ピュグは家の中に引っ張り込まれ、ノアクルたちは毛布を人数分渡されて放置されてしまった。
怒濤の勢いで、ただ棒立ちしているだけの状態になっていた。
「ふむ……。ピュグの祖父は喜んでいたか?」
「アレで喜んでいたら、さすがに我々の目と耳が腐ってまさぁ……」
「とりあえず寝床は確保できたのじゃ。一晩過ごしてから事情を聞くのが良かろうて」
ノアクルはそれもそうだと思い、勝手に寝ろと言われた作業場の扉を開いた。
外観が木製のほったて小屋だったので中も埃っぽいかと思っていたが、どうやら綺麗に掃除されているらしい。
ランプに明かりを灯すと、その光景にノアクルは眼を輝かせた。
「ほほう、これはこれは……」
***
職人の朝は早い。
ピュグの祖父――ヴァンダイク・アーマードワーフは、朝日が昇り始めた頃には眼を覚ましている。
慣れた手つきで根菜とイノシシのスープを作り、それと焼いたパンをセットにしたものを五人分用意する。
その内の三人分を手に、作業場へと向かう。
「ふんっ! これを食ってさっさと出てい……」
ドアを開けた先の光景に、ヴァンダイクは眼をかっぴらいてしまった。
昨日までの光景とは違うからだ。
「こ、これはいったいどういうことだ……!? ここにあったのは〝ゴミ〟ばかりだったはずだ!!」
ヴァンダイクの作業場は古代技術で作られたものの、どうやっても修理できなくゴミ扱いされた物が多く転がっていたのだ。
それが綺麗に修復されて並べられている。
彼の驚きの声を聞いたノアクルは、アクビをしながら起き上がってきた。
「随分と早いな……もう少し寝かせてくれるとありがたいのだが……」
「こ、これをやったのはテメェか!?」
「そうだが? いけなかったか?」
「そ、そうじゃねぇが……いったいどうやって……」
「説明するのは構わないが……せっかくのスープが冷めてしまいそうだ。食べながら話さないか?」
ノアクルは、ヴァンダイクが持って来た食事を指差していた。
手の平を裏返しながらのポーズで、謎の優雅さと王子の威厳を感じられる。
「ふむ、ワイルドな美味さがあるな。ところでダイギンジョーの舌にも合うモノなのか?」
「あっしのことを何だと思ってるんでさぁ。さすがに家庭料理にケチ付けるほど野暮ってもんじゃありやせんぜ。味の評価なんざ結局は好み、お袋の味がうめぇと思ったらそれが実際に世界一うめぇってもんでさぁ」
ノアクル一行はマイペースに食事をしていたが、話を聞いたヴァンダイクは驚いていた。
「……【リサイクル】……そんなスキルが……。なぜアルケイン王国はそんなすごいものを禁忌として……。って、今のあんたたちは大型の魔導エンジンを探しに来たんだったな」
「ああ、そうだ。今度はそちら側の話を聞かせてほしい」
「そうだな……まずは何から話したものか……」
そこからヴァンダイクは古代技術の品々を見ながらも、ポツポツと話してくれた。
このドワーフたちが住んでいた機械の島に、トレジャン海賊団がやってきた。
海賊たちは戦闘に慣れていて、特にトレジャン、ジュエリン、コイコンの三人の力が強く一瞬にして占領された。
海の戦闘でも慣れていて、外部から送られてくるディーロランド海軍も歯が立たないという。
(ディーロランド海軍でも対処できない……? もしや、ラデス王が死者の島の探索を頼んできたのも、最終的には同じ目的を持つトレジャンと戦わせるためか? とんだ食わせ者だな……)
現在、トレジャンとコイコンは不在で、残りの海賊たちとジュエリンが仕切っている。
ジュエリンは鉱山から採れる宝石に興味を持ち、その採掘効率を上げるために博物館にあった古代技術の品々を集め、それをドワーフたちに修理させようとしているのだ。
「ところが、古代技術に精通しているドワーフというのは珍しいもんでな。うちくらいなもんだ」
「ん? この機械の島は古代技術が多く発掘され、そこにいるドワーフもそういうのが得意なんじゃないのか? 魔導エンジンや、魔大砲の技師も輩出してるんだろう?」
「その程度の技師はいる。だが、そこ止まりだ。普通の魔導エンジンや、魔大砲は実用性が見いだされているが、それ以上となると試行錯誤をしても結果が出ずに無駄と言われている――つまり〝ゴミ〟だ」
ヴァンダイクは自らのことを指しているのか、苦虫を噛み潰したような表情になっている。
それとは真逆に、ノアクルはゴミと聞いて大輪の笑顔を咲かせた。
「そうか! ゴミか! ふはは!! いいぞ、いいぞ!!」
「な、なんだコイツは……」
「すまんのぉ……ちっと頭のおかしい奴だが悪気はないんじゃ……」
アスピのフォローに困惑しながらも、ヴァンダイクは話を続けてくれた。
「未だに古代技術の先を見据えて色々やっているのはアーマードワーフ家であるオレと、孫娘のピュグくらいだ。他の有名どころのソードワーフ家や、シールドワーフ家は細々と既存の物をいじくり回すばかりだ」
ちなみにドワーフの家名は特殊で、祖先が何の道具を作っていたかによって決まっているという。
アーマードワーフなら鎧、ソードワーフなら剣、シールドワーフなら盾と言った具合だ。
「なるほど、それでピュグが狙われていたということか」
「孫娘にはワシのすべてを叩き込んだ。……だが、それでもあの大型魔道エンジンというじゃじゃ馬はどうにもできなかった」
「まぁ、それができればすでに直しているもんな。……で、そこで俺の出番ということだ。スキル【リサイクル】である程度修復したあとなら、動かせるようになるんじゃないか?」
ノアクルたちが食事を食べている間も、リサイクルされた古代技術の品々をイジっていたヴァンダイクは首肯した。
「ここまでキッチリと直っていれば、あとは調整で済む物が多い。これならあの大型魔道エンジンも動く可能性があるな」
「そうすれば死者の島へも行くことができるし、トレジャンの奴とも決着が付けられるな」
「お前、トレジャンの小僧と戦うつもりなのか?」
「ああ、そうだが……。ヴァンダイク、お前は奴と知り合いなのか?」
「トレジャンはな……この島で育ち、アイツの義手はオレが仕上げてやったものだ」
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