異端のドワーフ

 ドワーフ種族。

 全体的に成人しても背が低く、耳が尖って体毛が太いという特徴がある。

 男性ドワーフは筋肉密度が高く、全身がモジャモジャだ。

 女性ドワーフもそちら側のイメージだと思われているが、それは間違いである。

 たしかに体毛は太いのだが、それ以外は背の低い人間の女性とそう変わらない。

 強いて言えば癖っ毛になりやすいくらいだろうか。


 道を歩くドワーフの少女――ピュグ・アーマードワーフも赤みがかった癖っ毛を揺らしながら、夜の森の中を逃げていた。


「はぁはぁ……しつこいですます・・・・!」

「待てぇ! このトレジャン海賊団から逃げられると思うか! 舌っ足らずで、変な言葉遣いのドワーフ娘め!!」


 追っているのはトレジャン海賊団のマークが入ったバンダナの男だ。

 それが海賊なのは明らかだろう。


「役立たずで異端なお前を、ジュエリン様が役立てようとしてくれてるんだ! 早くジュエリン様のところへ連れて行かないとなぁ!」

「私ちゃんは、悪い海賊の力にはなりたくないですます!」

「はっ、なぁにが『悪い海賊の力にはなりたくないですますぅ~』だ。他のドワーフたちから避けられているテメェが偉そうによぉ! この島じゃ正義はオレたちトレジャン海賊団だぜぇ!?」

「それでも、アーマードワーフの名にかけて……あっ」


 ピュグは問答に気を取られて、足元の石で転んでしまった。

 海賊の男がゆっくりと近付いてくる。


「へへ……こんな夜の森の中で走って逃げるからだ……」

「ひっ、誰か……助け……」

「こんなところに助けに来る王子様なんているはずが――グギャアッ!?」


 ピュグに触れようとした海賊の男は、次の瞬間に悲鳴を上げていた。

 斜め上から飛んできた何者かに蹴られたのだ。

 そのままピクピクと痙攣しつつ気を失ってしまった。


「だ、誰ですます……?」

「ふはは! 助ける者の声あらば参上しよう、それがこの俺! ノアクルだ!」




 ***




 人間砲弾となって激突死しようとしていたノアクルだったが、着地地点に丁度良いクッションがあって事なきを得た。

 ついでに人助けもできたっぽいのでオールオッケーだ。


「そ、空からすごい! 格好良いですます……!!」

「ふっ、王子だからな。格好良く当然だ。ですます娘よ」

「ですます娘ではなく、名前はピュグ・アーマードワーフですます! って、ノアクルさんは王子様!? はっ!? そんなに偉いのならノアクルさん様と呼ばなきゃですます!」

「別に俺はどう呼ばれても構わんがな!」


 ツッコミ不在でノアクルとピュグの奇抜な会話が続いている中、ようやくフラフラとダイギンジョーが立ち上がってきた。


「な、何か奇っ怪な喋り方のドワーフのお嬢さんでさぁ……」

「ふはは! ダイギンジョーには言われたくないと思うぞ!」

「あたた……それはそうじゃな……」


 殻に潜り込んでいて難を逃れたアスピも、首をニョキッと出してきた。


「わっ、亀さんが喋った」

「とにかく、今は大型の魔導エンジンを探さねぇと。以前は街の博物館飾られて――」

「大型の魔導エンジンを探している……? それだったら、もう博物館にはありませんですます」

「ほう、ピュグ。知っているのか?」

「はい、今はトレジャン海賊団の本拠地でジュエリンが守っているですます」

「ジュエリン……」


 その名前を聞いてノアクルは思い出した。

 以前、ディーロランドのラデス王を襲ってきた中の一人だ。

 ジーニャスと知り合いだったことから、結構な古株な雰囲気を漂わせながらも、ケバめな化粧などで年齢はあまり分からなかった。

 ただかなり野太い声だったことと、宝石を武器に使っていたのは覚えている。


「トレジャンの右腕で、趣味は顔の良い男を嬲ること。元フランシス海賊団だった男でさぁ……。ちなみに年齢を聞いたらぶち切れますぜ」

「なるほど、覚えておこう」


 そう言いつつあまり覚える気になれない内容だ。

 すぐに次の話題へと移ることにした。


「さて、それではトレジャン海賊団の本拠地へ向かって大型の魔導エンジンを強奪しに行くか」

「いやいや、ちょっと待つのじゃノアクル。この暗闇の中で忍び込みやすいかもしれぬが、それは目的地を把握していた場合じゃ。さすがに一度様子見をしてからの方が良いと思うのじゃが……」

「ふむ、たしかにテキトーにスキル【リサイクル】をぶっ放して、大型の魔導エンジンまで破壊してしまっては元も子もないからな」

「明るくなるのを待ってから、顔を隠して偵察というところですかねぇ」

「そうするか」


 ノアクル、アスピ、ダイギンジョーの意見が珍しくまとまった。


「では、ここをキャンプ地とする!」

「あ、あの……」

「なんだ、ピュグ」


 ピュグが恐る恐る話しかけてきた。

 このキャラの濃いメンツの会話に入ってこられるとはなかなかである。


「もしよかったら、家が近くなので泊まっていくですます?」

「ワシが言うのもなんじゃが、このクソ怪しい二人と一匹を家に案内するとは度胸があるのぉ……」

「私ちゃんを助けてくれたし、悪い人ではないはずですます! それにお爺ちゃんも喜びそう」

「ふむ、それなら厄介になることにしようか!」


 ノアクル一行は、ピュグが住む森の奥の家へと向かうことになった。




――――――――

あとがき

たぶんピュグは絵がつかないとセリフ的にくどいキャラかなぁと察する。

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