トレジャン海賊団本拠地、機械の島

 機械の島。

 古くから鋼鉄の遺跡などが出土し、住んでいるドワーフもそれらに影響されて特殊な技術を高めていったという。

 鉱山もあり、気象は乾燥気味で鉄などが錆びにくい。


 まさにドワーフにとっての楽園のような島だったが近年、トレジャン海賊団がやってきた。

 ドワーフたちは金や食料を代価として支払い、トレジャン海賊団は機械の島を守る……という大義名分を主張しているが、元々が平和な島だったので詭弁だ。

 ダイギンジョーが立ち寄ったときも息苦しい閉塞感があったという。


「理由は何となく察した。俺とダイギンジョーだけで向かうというのも、人数が多くてもトレジャン海賊団に発見されやすいからというわけか」


 今回は戦闘が目的では無く、ダイギンジョーが機械の島で見たという壊れた大型魔導エンジンが目的だ。

 下手にノアクルたちが気付かれたら大型魔道エンジンを先にどこかへ隠されたり、海に沈められたりしてしまう可能性もある。

 そこでスキル【リサイクル】を持つノアクルと、現地を知っているダイギンジョーだけで向かうことにしたのだ。


「うん、そこまではいい。多少危険でも何とかする自信もある。だがな――」


 いつになく眉間にシワを寄せて険しい表情のノアクルと、ダイギンジョーの顔だけが見える。

 魔大砲の中から。


「なぜ魔大砲で撃ち出されなければいけないのだ……!?」

「南無阿弥陀仏……」


 今まさに大砲で発射されそうになって焦るノアクルと、念仏を唱え始めたダイギンジョー。

 ちなみに時間は深夜で暗い。


「そうは言ってものぉ……」


 アスピは頭を抱えようとしたが、亀なのでうまく腕が届かなかった。


「トレジャン海賊団が本拠地にしている島へ海上都市ノアが近付けば即発見されるし、ゴールデンリンクス号も見た目でバレるしのぉ……」

「それなら新しい船を俺が作れば……!」

「そもそも船が発見されてチェックされたら、トレジャンたちに顔を見られたノアクルは、普通に敵全員に伝わっている可能性があって危険じゃぞい。というわけで秘密裏に、手っ取り早く上陸できる方法がこれじゃ」

「いや、だからって俺たちを魔大砲の弾にして上陸するとか正気じゃないだろう!?」


 この方式でゴーレムハンドアンカーを遠くに打ち出していたのが脳裏に浮かび、そのとてつもない勢いに血の気が引いた。


「大丈夫じゃ、ダイギンジョーは落下耐性のあるケットシーなので高いところから落ちても平気。これで問題ないのぉ」

「大有りなんだが!? 俺は!?」

「……………………よし、ローズ嬢。発射じゃ!」

「はいですわー!」

「おまえええええええええええええええええぇぇぇぇ……」


 今回の魔大砲は消音重視の術式サプレッサーなのであまり音もせず、地味にノアクルとダイギンジョーが機械の島へ向かって発射されていった。

 それを見送るローズたち。


「本当は殿下を敵地に送り出すという危険なことはしたくないですが、殿下なら何か大丈夫かなぁと……。って、あれ? さっきまでここにいたアスピ様は?」

「兄弟がギリギリでスキル【リサイクル】で網を作って、アスピさんを巻き込みながら発射されて行きやしたぜ……」


 呆れ顔のトラキアがそう答えた。

 獣人特有の動体視力で見ることができていたのだろう。


「殿下らしいというか、何というか……」


 どんなことをしでかすか分からない自分の主に対して、ローズは溜め息を吐くしかなかった。




 ***




「なぜワシがあああああああ!?」

「わははははははは!!」

「お二人とも、一応これは隠密行動でさぁ……」


 人間砲弾として物凄い速さで飛ばされる三人。

 ドップラー効果で音を残しながらそれぞれ声をあげている。

 闇夜の鳥が見えないように、この人間砲弾の三人も発見される可能性は低いだろう。


「そういえば、あっしも強制的につれてこられやしたが、これはこのまま着地……いや、地面に激突したら死ぬのでは? 猫だから平気うんぬんじゃねぇですよこれ……」


 華麗に空を飛ぶ鳥と違い、今の三人はただの砲弾だ。

 凄まじい速度で炸裂してしまうだろう。

 ついバラバラになってしまう自分を想像してしまう。

 迫る地面、ダイギンジョーは再び念仏を唱え始めようとした。


「心配するな、そのために俺がいる。スキル【リサイクル】!」


 ノアクルは事前に使えなくなった布をもらっていて、それを高密度の半球状の布にした。


「そうか、パラシュートで着地するって方法がありやしたね!!」

「……のぉ、ノアクル……。パラシュートというものはもっと前に広げておく物じゃぞい……?」

「……わははははははははははは!!」


 ノアクルはつい楽しくなってしまい、大笑いをしだした。

 落ちない速度。

 血の気が引くアスピとダイギンジョーは『あ、これ死んだな』と察して走馬灯が見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る