次の目的地

「ローズ、不可能とはどういうことだ?」


 ノアクルは思わず聞き返してしまう。

 出現する場所さえわかれば、死者の〝島〟なので海上都市ノアで辿り着くのは容易なはずだ。

 風がなくても魔導エンジンで進むこともできる。

 何が問題か理解ができない。

 その疑問に対してローズが答える。


「ディロスリヴの羅針盤が指し示す方向を計測して、詳細な場所が判明しましたわ。そこは海流が激しく、アスピさんと検討したところ現在の魔導エンジンの推力では突破できませんわ」

「ふむ……」


 島なら到達できるかと思っていたが、激しい海流というのは予想外だ。

 ローズとアスピが検討したのなら、よほどのもので魔導エンジンでも到達できないのだろう。


「殿下……本当に死者の島へ行く必要があるのでしょうか?」

「なに?」


 ローズの問い掛けは、至極真っ当な物だった;

 そもそも死者の島へ向かわなければ何も問題はないのだ。


「トレジャンと戦うなどという蛮行のために……」

「まぁ、お前ならそう思うかもしれないな。たしかに死者の島へ向かうというのは非効率的だろう。だが――」


 ローズは息を呑んだ。

 ノアクルはいつになく真剣で、いつになく笑みを浮かべていた。

 それはもう立派な海の男と言わんばかりの表情だ。


「トレジャンは俺の仲間にあんなことをしてくれたんだ。それなら借りを返してやらなきゃいけないだろう」

「そんなことのために……」

「そうだ、〝そんなこと〟だがな。もし、これが俺だけやられたなら笑って済ますだろう。しかし、今回は違う。このままでは気が済まんのだ」

「はぁ~……。まぁ、良い方に解釈すれば臣民のために行動できる王の器で、信頼を得られる人柄という感じですわ。……それで、どうしても諦めないのですね?」

「もちろんだ。俺はこれくらいで諦めたりはしない。死者の島を阻む激しい海流を何とかすればいいだけなのだろう?」


 それができれば苦労しない、という視線が集まる。


「空を飛んで海流を飛び越えるというのはどうだ?」

「パルプタでもなければ無理ですし、個人で行けそうなのはムルさんくらいですわ」

「ムルか……運んでもらっても途中で落とされそうだな……。俺一人で到達してもあまり意味はないしな。うむ、次だ。海流を作り出す原因となっているものを消して渡るという手段はいけそうじゃないか?」


 ローズは溜め息を吐いた。


「自然発生の海流とは思えないので、たぶん〝死と再生を司る海神ディロスリヴ〟によるものですわ……」

「さすがに猫神と違って、神は神でも規模が違うか。下手に海神殺しなんてすると世界のバランスがどうなるかわからないしな」


 そうなると残された手段は一つしか無い。


「海流を強引に突破する方法だ」


 ローズは先ほど『現在の魔導エンジンの推力では突破できませんわ』と言っていた。

 つまり、魔導エンジンさえどうにかなれば、海上都市ノア自体は耐えられるということだろう。


「となると……魔導エンジンの強化か、増加といったところか?」

「うーん、でも殿下のスキル【リサイクル】でどうにかしようとしても、その元となる〝ゴミ〟がなければ不可能ですわ……」

「それが問題だな。魔導エンジンの元となったゴーレムをゴルドーがもう一度持って来てくれればなぁ」

「もうゴルドーはごめんですわ……。思い出すだけで寒気が……」

「魔導エンジン、それもとびきり強力なやつがあればなぁ」


 さすがにノアクルやローズ、いつもの面々に心辺りがない。

 知っていたのなら、すでに情報が全員に伝わっているはずだ。

 しかし、合流したばかりのダイギンジョーは素っ頓狂な声を上げた。


「えっ、魔導エンジンなら大型の物を旅の最中で見かけやしたよ」

「なんだと!? それはどこだ!?」

「トレジャン海賊団が根城とする本拠地――〝機械の島〟でさぁ」

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