表裏一体のコイコン
新たなチャンピオンの誕生に、海上は大盛り上がりだった。
「うにゃああああ!! 型破りですごいにゃあああ!!」
「あの猫神様が太鼓判を押したにゃ!! おっきな肉球で押したにゃ!!」
「さっそく〝海賊風フライドチキン〟を島の名物にするにゃ!」
「……でも、作るの難しいから普通のフライドチキンしか無理にゃ」
「シャッ! 普通のフライドチキンを猫神様風とか言って売るにゃ……!!」
商魂たくましいケットシーたちもいるが、それはダイギンジョーを認めた証拠だろう。
「じゃあ、願いを叶えてもらおう。俺たちを人間に――」
無事に猫の島での冒険が終わろうとしているかと思われたが、そこへフードを被った人間が割り込んできた。
「待て……。まだボクの料理を食べてもらってない」
「まだ残ってたのか。すまないな、猫神に審査をしてもらってくれ」
ノアクルが猫神の前から一歩引いて、フードの料理人へ場所を譲った。
それは控え室にいた、たった一人の人間だろう。
そこでチラッと顔が見えて、ノアクルはハッとした。
「ちょっと待て」
「……なんだ?」
「その料理、俺も食いたい。先に食わせろ」
「……は?」
***
フードを被って潜入していたトレジャン海賊団のコイコンは、その知らない猫――ノアクルの言葉に焦っていた。
(まずい、これは猫神を殺すための毒入り料理……。この猫に先に食われたらバレてしまう……)
トレジャン海賊団は、猫神が持つという宝を以前から狙っていた。
しかし、宝は猫神の力によって封印されていて手が出せない。
そこで猫神が姿を現す料理大会で毒殺するために、コイコンがやってきていたのだ。
(もしかして、ダイギンジョーの助手の猫はボクの正体に気が付いて……?。いや、それだったら毒物を食べるのはおかしい……。いったい、どういうことだ!?)
コイコンが躊躇していると、ノアクルは皿に載った料理――毒入り団子を摘まんでヒョイパクと食べてしまった。
「あっ」
コイコンは思わず声を出してしまう。
「どうしたんだ? もしかして、毒でも入っているような慌てようだな?」
「お前……やはり知ってて!? 何者だ!」
「俺はノアクル。海賊の料理は美味いと思ったからつまみ食いしてみた! ジョークで毒が入っているとか言ってみたが、本当に入っていたのか!!」
「……は? ノアクル? 猫?」
コイコンは理解が追いつかなかった。
ただわかったのは、猫の姿をしたノアクル王子が、馬鹿で毒を食って死ぬんだなということだけだった。
***
ノアクルは普通に焦っていた。
「そのリアクション……マジで毒が入っていたのか……」
すべての原因は腹が減っていたことだ。
最初から普通に小腹が空いていたところに、会場中で料理を作り始めたのだ。
しかも猫になった身体は、焼き魚やちゅる~んなどは食欲そそるようになっている。
加えてダイギンジョーの〝海賊風フライドチキン〟の調理を間近で見ていたのだ。
こんなのは深夜に飯テロされるレベルだ。
そこへ、フードで正体を隠したコイコンが料理を持って来たのだ。
海賊の料理は美味い、と脳に刷り込まれたノアクルは限界だった。
天上天下唯我独尊オレ様精神でつまみ食いを実行した。
「ノアクル様、相手がコイコンって気が付いたのに、なんで食べちゃうのにゃー!?」
陸のジーニャス相手からツッコミを入れられるとなかなかにキツい。
それを見てハッとした猫神。
「ま、まさか。妾を身を挺して守るために毒味を……」
「いや、ノアクル様はフツーにつまみ食いだと言って――」
「死ぬ寸前まで格好を付けるとは……そこまでの〝漢〟は神である妾も見たことがないにゃ……。まさに王の中の王……」
「いやいやいやいや……」
なんか勝手に勘違いされて色々と言われているが、ノアクルとしては内心大焦りだ。
(毒で死ぬぅぅぅぅぅぅぅう!?)
まだ食べた直後なので多少の猶予はあるだろう。
お腹が空きすぎて速攻で飲み込んだというのもある。
これが胃に吸収されて、全身に回ればアウト確定。
棄てられ王子の最強イカダ国家! 完! だ。
どうするか考えを巡らせる。
コイコンが解毒剤を持っている可能性は?
持っていても奪い取る時間でアウトになりそうだ。
実は毒が効かない特殊な訓練を受けている家系で……はないので毒耐性は無い。
誰かが解毒魔法を使えるというのもない。
最後の手段として吐き出すという手段はなくもないが、胃に吐き出しきれない致死量が残留してしまえば手遅れだろう。
脳をフル回転させ、自分の持ちうる力すべてを使っても生き延びなければならないという走馬灯が駆け巡る。
というところで思いついた。
この間、一秒にも満たずに表情も真顔のままだ。
「スキル【リサイクル】で体内の毒――つまりゴミを圧縮する。そして慣れた猫の毛玉吐き……オエェェェ!」
「うわ、ノアクル様……。猫の姿じゃなかったら見た目が最悪だにゃ……もう人間としてのプライドがないにゃ……」
今日のジーニャスがなかなかに辛辣な気がする。
そんなやり取りをしている間に、コイコンは猫神を暗殺すべく次の手を打っていた。
毒殺がダメなら、直接の殺傷だ。
「死ね、猫神」
鍛え上げられたコイコンの暗殺格闘術が、猫神を襲う。
その手刀は刃のように鋭く、間にあった皿を真っ二つに斬り裂きながら突き進む。
猫神に命中――するかと思われた瞬間。
「まだまだだにゃ、人間よ」
猫神の巨大で鋭い爪が、コイコンの手刀を受け止めたのだ。
「なに……!? お前……猫神と言いつつ、戦ってみると風格が明らかに猫と違う……。豹……いや、ライオンか!?」
「ら、ライオンだって一応は猫っぽい生き物だにゃ! 猫を名乗っても問題はないはずだにゃ!」
ライオンは
雌の場合はサイズの大きい猫と言っても過言ではない――と猫神は思っていた。
「チッ、さすがにライオンの神相手ではパワーが足りない……」
「猫の神だにゃ!!」
両者はいったん離れて仕切り直しとなった。
ちなみにシリアスな場面だが、ノアクルは未だに背中をさすられながら毛玉を頑張って吐こうとしている。
「では、ボクも――トレジャン海賊団〝表裏一体のコイコン〟として本気を出す」
コイコンは、コインを弾いて手の甲に乗せて、上から手の平をパシッと被せた。
「このコイン、トレジャン船長がくれた宝。コイントスしたあとに表か裏を当てるとボクが強くなる」
「そんなことを話すとは、よっぽど自信がある証拠かにゃ……?」
「いいや、これを話すことによってさらに効果が高まる。それだけ。じゃ……表で当たり」
コイコンの雰囲気が変わった。
瞳が爛々と輝き、深く腰を落としたかと思った瞬間に消えた。
「にゃっ!?」
「遅い」
猫神は先ほどと同じように爪でガードしようとしたのだが、爪が切り落とされているのが見えた。
そして、コマ送りの映像を見ているかのように、次の瞬間にはコイコンの手刀が首元に迫ってきていた。
トレジャンが授けた宝のパワーアップ効果によって、コイコンは異常な強さを得ている。
神殺しがなされる。
――否、コマ送りは、本当に〝そのコマ〟で止まっていた。
止められていた。
「おっと。猫神を殺されると、俺たちが人間に戻れないんでな」
それはノアクルが飛ばした細かな繊維が、コイコンの全身を絡め取っていたからだ。
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