大会優勝者
「ふ、フライドチキン……?」
ダイギンジョーの言葉に、周囲の猫たちは大笑いしてしまう。
「にゃはは! ビビらせやがって! なんで猫神様に捧げる料理でフライドチキンなんだにゃ~!!」
「フライドチキン? にゃはっ、フライドチキンって、おまっ、マジで言ってんのかにゃ!?」
「ありえないにゃ! あの猫を象徴する猫神様が、揚げただけの鶏肉なんてお気に召すわけないにゃ!」
そう、これはただの料理大会ではない。
猫の島を治める神――猫神のための料理大会なのだ。
猫の中の猫である、猫神がフライドチキンを食べるはずがない。
島の猫たちはそう思っていた。
しかし――
「いや、そもそも猫神様は猫じゃねーだろう」
「……にゃにゃ?」
そのダイギンジョーの言葉は意味がわからなかった。
ただ一人――猫神を除いては。
「そ、それを早く……早く食わせるにゃ!!」
「ククク……どうやら猫神様は、ケットシーのあっしらよりも鼻が良いから〝やられちまった〟ようでさぁ……」
ダイギンジョーは料理人らしからぬ邪悪な顔――海賊船にいた頃の彼に戻っているようだ。
もはや
「さぁ、最高の一皿を食らいやがれってんだ!!」
フライドチキンが載った皿を差し出すと、猫神は火傷も恐れずに肉球で掴んでかぶりついた。
「
「そう、タップリと使った油は島で取れるアブラヤシのもの。それに地下ダンジョンに生息していたドードーの肉を使ってるって寸法よぉ」
それを聞いた周囲の猫たちはどよめいた。
「も、モンスターの肉を使ってるにゃ!?」
「あの不味いと有名なモンスターの肉を……そんにゃ……どうやって……」
ギャラリーを気にせずダイギンジョーは説明を続けた。
「それに仲間たちのおかげで、ダンジョンの最奥にしか生えてないという〝マイティスパイスの実〟を手に入れて調合して使ってみたって次第でぃ!」
「なるほどにゃ……。この衣に付いている、何とも言えない癖になる味はそういうカラクリがあったのかにゃ……」
「名付けて〝海賊風フライドチキン〟だぜぃ!!」
海賊――その言葉を聞いて猫の兵士たちが驚いた。
「か、海賊!? あっ、よく見たらこいつ海賊として捕まった奴らだにゃ!!」
「今さら気が付くとは、猫たちは結構ゆるいな……」
ついノアクルが突っ込んでしまうが、猫たちは気にせず話を続ける。
「猫神様の御前だにゃ!」
「引っ捕らえるにゃー!」
猫の兵士たちがノアクルたちを取り囲んだが、猫神がそれを一喝する。
「待つんだにゃ!!」
「猫神様!?」
「こんなに美味い料理を作る猫、そなたの名前はなんだにゃ?」
「あっしの名前はダイギンジョーでぃ!」
「そうだにゃ、ダイギンジョーという名前だったにゃ。前回、自分は海賊だと言っていたにゃ」
「はんっ! あっしは海賊でも元フランシス海賊団で、傍若無人なトレジャン海賊団とは関係がねぇっつってんのに、話を聞かなかっただろう、おめぇら!」
「ね、猫神様になんて口を……!!」
猫の兵士たちが抑え付けようとしたが、猫神がそれを手で遮った。
「よいにゃ。たしかに海賊というだけで話を聞きもせず地下へ送ってしまったにゃ。そのせいで、ダイギンジョーの作る料理を食べる機会を逃してしまった。反省するにゃ。この海賊風フライドチキンが一番美味いにゃ」
「てぇことは、優勝はあっしらかい!」
現段階で一番美味いということは、優勝がノアクルたちのものになったということだ。
悪魔のちゅる~んを作った猫はそれを許せず、怒りで打ち震えてしまう。
「ね、猫神様が……ありえない……。にゃーの料理が負けることもありえないにゃ……。ありえないにゃあああああああああ!!」
「おめぇも料理人なら、自分の舌に聞いてみな」
ダイギンジョーは、海賊風フライドチキンを彼の口に押し込んだ。
「にゃっ!? モグモグ……これは……これはああああ!? ウーマーイーニャアアアアアアアアアアアアアア!!」
悪魔のちゅる~ん猫は、あまりの美味さで全身の毛が吹き飛んで寒そうな姿になってしまった。
性根はねじ曲がっていたが、舌は素直だったのだろう。
「こ、こんなリアクションする奴ぁ初めて見たぜ……。つーか、毛が散らばりすぎだろ……」
食事シーンを数多く見ているダイギンジョーでも、さすがに引いてしまった。
何はともあれ――
「勝者!! ダイギンジョー!!」
料理大会の優勝者はノアクルたちに決定した。
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