王道が最強とは限らない
いよいよ料理勝負が始まった。
広い宮殿の庭に大量の食材や調理器具が並べられている。
数十人の参加者たちは、そこで料理を作っていく。
「早さこそ料理だにゃ!!」
早速、最初のチームが料理を仕上げた。
それを猫神のところへ運んでいく。
「へっ、たしかにこの形式なら早い方が有利だろうぜ」
ダイギンジョーが手を動かしながらもそう呟く。
今回の料理大会は少し特殊だ。
チームが料理を作り終えたら、すぐ猫神に食べてもらい審査に移る。
つまり、最初の方が飽きたり、満腹になったりというリスクもない。
最初が有利で、最後が絶対的に不利だ。
「うむ、美味であるにゃ。猫の島の伝統に則っての魚料理というのも考えが行き届いているにゃ」
「ははっ! 有り難き幸せですにゃ!!」
最初のチームが出したのは王道の焼き魚だ。
たしかにシンプルで早く出来て、それでいて猫が好物っぽいイメージもある。
島の付近で新鮮で美味しい魚が捕れるというのもポイントが高い。
「こっちもできたにゃ!」
「その次はうちのチームだにゃ!!」
「完成ー!!」
次々と別のチームが料理を完成させていく。
どうやらこの料理大会の必勝法としての早さの大切さを知っているらしい。
「このねこまんまは塩分控えめで配慮されておるにゃ。ふむ、こっちのマタタビ漬けは風味が素晴らしいにゃ。手製キャットフード……手抜きなのか無駄に凝っているのか……」
猫神もそれぞれに評価を下していき、満腹になってきたのかモフモフのお腹をポンポンとさすっている。
そこに次の料理猫がやってきた。
「ククク……できましたにゃ……。悪魔のちゅる~んが!!」
「ほう。終盤に来て、前回惜しかったちゅる~んのチームかにゃ」
「今回は違いますにゃ! うますぎて悪魔が作ったとされるちゅる~んのレシピを隣国のオークションで手に入れましたにゃ!!」
それは控え室でガラの悪かった猫だった。
猫神に悪魔のちゅる~んチューブが載った皿を差し出した。
「では、頂くとするかにゃ……。こ、これは!! うまいにゃ!! うますぎるにゃ!! この何の肉ともわからないが、絶妙な味! 食感!
「にゃはは! とても繊細な配分で魚、鶏肉をブレンドしてますにゃ!」
「た、たしかに一番美味い……だがしかし、他者のレシピで料理大会に出るのはいいのかにゃ……?」
「何を仰る猫神様、美味けりゃ勝ちですにゃ!!」
「むぅ……」
その悪魔のちゅる~んの美味さの前に、猫神は押し黙ってしまった。
食は猫を寡黙にするのだ。
会場中も静まりかえり、勝負は悪魔のちゅる~んに決まったかと思われた。
しかし――
ジュワアアアアアアアアアアア!!
大きな音が――魅惑的な揚げ物のサウンドが静寂を斬り裂いた。
「おっと、まだ最後にあっしたちがいるのを忘れてねぇですかい?」
ダイギンジョーは何かを大量の油で揚げながら言った。
それに対して悪魔のちゅる~んチームの猫は気に食わないのか突っかかってきた。
「猫神様が一番美味いと仰った悪魔のちゅる~んに勝てるはずがないにゃ!! アレは悪魔が生み出したレシピだにゃ!!」
「ふぅ~ん、悪魔ねぇ……。なら、あっしは悪魔ってことになりますかねぇ?」
「な、何を言ってるにゃ……」
ダイギンジョーは心底つまらなさそうに言った。
「あのレシピを生み出したのはあっしでさぁ」
「な、ななななな!?」
「あまり納得できない段階でレシピを盗まれちまったもんでさぁ。まさかそれがオークションにかけられて、こんなところで見かけることになるたぁ……猫生は因果なモノってこったなぁ」
信じられないという顔をしている悪魔のちゅる~ん猫は、ダイギンジョーに近寄ってきた。
「おっと、揚げ物をしてるんだ。危ないぜ」
「い、いったい何を揚げているというのだにゃ……。猫神様に気に入られるのなら、魚の揚げ物かにゃ!?」
近くに寄った分だけジュワアアアアアアアアアという音が響き、耳が幸せになってしまう。
目をトロンとさせてしまう悪魔のちゅる~ん猫。
「猫が魚? そんな固定観念があるからまだまだだってんだぜ。よっと!」
ダイギンジョーが引き上げたのは、衣の付いた巨大なドードー肉だった。
「こ、これはいったい……!?」
「フライドチキンでぃ!!」
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