シャバの空気はうんめぇにゃ、と猫は言う

 今日は猫神に捧げる料理大会の日だ。

 会場周辺は観光客と、現地民であるケットシーで賑わっている。

 普段は屋台で料理をしているケットシーも、今日はお客として楽しむためにやってきていた。

 そのケットシーに、ドンッと猫が肩をぶつけてきた。


「痛いにゃ! 気を付けろ……にゃ……ッ!?」


 その猫――猫五匹組は、ギロリと睨みを利かせてきた。

 殺気ですらない、ただの一瞥に屋台ケットシーは腰を抜かしてチビってしまう。

 外の猫たちにはない、過酷な環境を生き抜いたアウトローな風格だ。


「ひぃっ!? な、なんなんだあんたたちは……カタギじゃないにゃ!? い、いや……よく見ると少し前に屋台に来た酔っ払いか……!?」

「おっと、死合に急いでいたのですまなかったねぇ」

「シャバの空気はうんめぇにゃ……」


 屋台猫は、何か大変なことが起きそうだと察した。




 ***




 料理大会の場所は、猫神が御座すという宮殿の庭を使って行われる。

 島の建物と同じように木造で猫の装飾が飾られているのだが、規模が大きく、造りも細やかになっているので神聖さと高級感を醸し出している。

 その入り口で大会の受付が行われていた。


「もうすぐ参加者の締め切りですにゃ~。参加予定の方はお急ぎくださいにゃ~」

「ふぅ~、受け付けも大変だにゃ~」

「少し前に海賊猫が紛れ込んでるってなって中止になって、またやることになるんだからにゃ~。猫使いが粗いにゃ~」


 受け付け猫二匹が凝り固まった肩を肉球で叩いたり、首をコキコキ鳴らしたりしながら愚痴を言い合っていた。


「今回の優勝はどこだと思うにゃ?」

「うにゃ~ん……。年々レベルが上がってきてるからにゃ~。上位は固定化してきて、新参が入ってきても無理だろうにゃ~」

「噂じゃ、珍しい人間の料理人が面白そうなものを作るらしいにゃ」

「あ~、あのフード被ってコインを弾いている人間かにゃ。何か新しい料理で風穴を開ければ猫神様が気に入る可能性はワンチャンあるにゃ~」


 うんうん、と頷き合う猫二匹だったが、受け付けに誰かがやってきていることに気が付いた。


「あ、参加希望ですかにゃ? サインか肉球スタンプをお願いしま……にゃー!?」

「お、おいおい……さすがに見た目が怖いからって失礼だにゃ……」


 参加希望の五匹は各自、器用に肉球で名前を書いていく。

 料理人ダイギンジョー、助手ノアクル、ローズ、ジーニャス、レティアリウス。

 受け付けの猫はどこかで名前を見たことがあるような気がしたが……ダイギンジョーたちが持っている巨大な袋と樽を見て驚き、考えが吹っ飛んでしまった。


「そ、それは何だにゃ?」

「食材の持ち込みは許可されているよな?」

「い、一応は魔法で毒物検査をすれば平気だにゃ……。中身はなんだにゃ?」

「魔物の肉と、大量の油だ」


 そう言われて、猫たちはどんな料理を作るのか想像できなかった。




 ***




 ノアクルたちは無事に料理大会に参加することができた。

 大勢の料理人がいる控え室で、ようやく一息吐けた。


「やれやれ、意外と気付かれないものね」

「また私とダイギンジョーが海賊関係者だとバレたら、しょっ引かれちゃいますからにゃ~」

「地下へ逆戻りはごめんでぃ!」

「ところで、願いを叶えるために猫神様と一対一で対面しちゃうと最後はたぶんバレちゃうと思うのですが、それはどうするんですか?」


 四匹の会話のあと、話題の矛先を向けられたノアクル。

 仲間たちの視線が集まっているのを感じ、自信満々で答える。


「ふはは! 何とかなるだろ!」

「お、おめぇらのトップ、こんなので平気なんでぃ……?」

「あはは……。ノアクル様、割とノリで生きてますからにゃ~……」

「もう慣れましたわ」

「まぁ、今度は目の前に猫神がいるのだから、きちんと説明すればわかってもらえるんじゃないかしら?」


 困惑しているのはダイギンジョーだけで、あとは全員落ち着いている。

 ノアクルがいれば大抵のことは何とかなってきたので、今回も何とかなるだろうという緩さだ。

 それで実際なんとかなってきたので、これが王の器というやつかもしれない。

 ――というところで、何やら控え室の一角が騒がしくなっていることに気が付いた。


「おうおうおう、こんなところに人間が参加してるなんて良い度胸だにゃー!」


 自分たちか? と一瞬思ったが、今の姿は猫だ。

 どうやら受け付けの猫が噂をしていた、フードをかぶっている人間らしい。

 それを見るとダイギンジョーは、義憤に駆られたのか走っていった。


「猫だ人間だと、金玉の小せぇ料理人でぇ! よってたかっていじめて楽しいのか、お前さんたちはよぉ!」

「うるさいにゃー! ここは猫の島だにゃ! 人間は黙って観光して金を落としてりゃいいにゃ!!」


 まさに一触即発の雰囲気だが、ノアクルたち四人も合流すると、互いの人数差が埋まったのか静かになってしまう。


「ふ、ふんっ! 今回だけは見逃してやるにゃ。あとで覚えてろにゃ……」

「はっ! あとでって、いつでぃ? 料理勝負のことなら、すっとこどっこいなお前さんらをケチョンケチョンにしてやるぜ!」

「こっちは準優勝の経験がある特製ちゅる~んを出してやるにゃ! 負けるはずがないにゃ! 吠え面かくのはそっちだにゃ! にゃはは!」


 そうしていちゃもんを付けてきた猫の料理人は去って行った。

 残されたのはフードを被った人間なのだが――ピンッとコインを弾いて、それが表か裏か確認して無言でどこかへ行ってしまった。


「な、なんだったんでしょうか……?」

「さぁな」


 ローズの困惑した言葉に、ノアクルはそう答えたが――ローブ姿の人間を見て何か引っかかるところがあった。




――――――――


わーい、この作品がHJ小説大賞の一次を通ってました~。

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