穴蔵脱出計画
その日から穴蔵脱出計画が開始された。
穴蔵とは、この地下労働施設のことである。
「さてと、それじゃあモンスターが出るというダンジョンへ出発するか」
地下での労働は二種類あって、安全な場所での採掘と、モンスターが占拠しているダンジョンへ赴いての採掘だ。
前者の採掘は、ノアクルがすでにやっていたものだ。
後者のダンジョン採掘は、ジーニャスとローズが情報を集めてきてようやく着手できる目処がついたところである。
「倒したモンスターの分のネコウカも報酬としてもらえるんだよな?」
「はい、きちんと監視から言質を取りましたにゃ」
「踏破したエリアの広さに応じてボーナスももらえるらしいですわ」
ジーニャスとローズの話からして、たぶんモンスターがいなくなったエリアは戦闘力の無い猫たちも発掘にあてがわれるのだろう。
ようするに倒して倒して倒しまくって前へ進みまくればいいのだ。
「丁度、最近発見された危険な横穴があるとかで、そちらがおすすめだにゃ」
「ま、待て待て。いくら期限が三日だからとはいえ、モンスターを相手にするなんて危険すぎだっつーの! 素人が戦ったら命がいくつあっても足りゃしねぇ!」
ダイギンジョーが止めに入るが、ノアクルはフッと笑った。
「ふっ、大丈夫だ。普通のモンスターくらい何ともない。……な? レティアリウス!」
「いや、ノアクルも戦いなさいよ?」
「俺が戦うってことはゴミが必要になる……。つまり、この集めたクズ石を消費しなければならない! モンスター程度にもったいないではないか!」
「さ、行くわよ~」
「ぐわぁ~!! 人権……もとい猫権を重視しろぉ~!!」
レティアリウスに引きずられながら、ノアクルはダンジョンへ入っていくのであった。
――ダンジョンとは、この世界に点在する不思議な場所である。
いつの間にか地下や建物がダンジョン化していることもあるし、内部に気性の荒いモンスターが自然発生する。
基本的にダンジョンの外へモンスターが出てこないので外部への危険性は少ないのだが、ダンジョンの中には有用なものがあることも多く、挑む者たちも多い。
今回は立地的に手つかずのレアな鉱石も見込めるだろう。
「何かイメージしていたダンジョンと違って、造られた坑道みたいな見た目をしているな」
「ダンジョンは色々な見た目をしているらしいのにゃ~。父に連れられて行ったところには、空が広がるダンジョンもあったにゃ」
「何でもありだな、ダンジョン」
ノアクルは、後方にいるジーニャスの説明を聞きながら進んでいる。。
ちなみに前衛がレティアリウス、中衛がノアクル、後衛がジーニャス、ダイギンジョー、ローズという並びになっている。
地面は硬い土と岩でゴツゴツしていて、通路は上下左右に曲がりくねっている。。
内部が木材で補強されていて人工物のように感じるが、これは自然発生したダンジョンのはずだ。
違和感を抱きつつも、さらに不思議なモノを発見した。
「坑道には不似合いなのが現れたな」
「地下へ続く坑道に鳥かぁ?」
「鳥……の割には飛べなさそうですわね……」
「アレはドードーだにゃ」
ドードーと呼ばれたモンスターは、ずんぐりむっくりな体型をした鳥だった。
翼がないので飛ぶというより、跳ぶしか出来ないように見える。
「なんかあんまり強そうなモンスターじゃなさそうだな」
「ノアクル様、油断をしていてはダメですにゃ」
こちらを見つけたドードーは、目の色を変えて突進をしてきた。
その体重が乗っているタックルは思った以上に迫力がある。
「体当たりで大人を数メートル吹き飛ばす威力を出してきますにゃ!」
「おいおいおい! それが今、俺を目掛けてやってきているぞ!? なんで俺なんだ!?」
「ヘイト上げのスキルでも持ってるんじゃないですかにゃ?」
「ねぇよそんなの!!」
初対面で悪い印象を与えることにかけては右に出る者はいないノアクル。
もしかしたら、モンスターにもそう認識されているのかもしれない。
「理不尽な暴力が俺を襲う!! って、マジでやばいぞ、今の俺は猫の身体だ!!」
当たり前のことだが、体格差があればダメージ量は大きく変化する。
人間の大人をも吹き飛ばすようなサイズの鳥が、小さな猫にぶち当たったら〝ノアクルの冒険譚、完! 次回作にご期待下さい!〟というエンドになってしまうだろう。
「あらあら、たまには可愛い慌てっぷりを見せるじゃない」
ノアクルの前にスッと出てきたのは、レティアリウスだった。
彼女はミニマムな犬の身体になっているのだが、器用に構えて気功を練る。
そしてドードーの突進に合わせて、円のような手の動きをすると――
『コケェッ!?』
美しい舞を魅せた。
ドードーは斜め後ろへ吹き飛んで壁へ激突して、数秒後にはグッタリとして動かなくなり息絶えていた。
「さすがだな、レティアリウス」
「この身体でも、結構戦えるわねぇ」
「す、すげぇ……いっぱしの戦士たちでも苦労するドードーを一撃でやっちまいやがった……」
気功を始めて目にするダイギンジョーは驚きの声をあげていた。
しかし、奥から地鳴りのようなものが響いてきた。
「や、やべぇ! 音に気が付いて、大量にドードーがやってきやがったぜ!!」
ダンジョンを埋め付くさん限りのドードーがやってきた。
これらが突進しながら通り過ぎれば、草一つ残らない勢いで蹂躙されてしまうだろう。
ダイギンジョーは急いで逃げようとしていた。
「無理だ!! はよ脱出を!!」
「いや、丁度いい。まとまっていればクズ石を何回も消費しなくて済むからな」
「は?」
ノアクルはクズ石をピンッと指で弾いた。
砕けた――否。
ドードーたちの頭上でクズ石がウニのように複数の針となって、突き刺さっていく。
「な、なにぃ!?」
ドードーたちは一瞬にして全滅した。
ダイギンジョーはあんぐりと口を開けてしまっているが、ノアクルとしては不機嫌そうだ。
「うーむ、やはり石だと強度的にボロボロに砕けてしまう部分があるな。これでは問題がある」
「こ、こんな一気に敵を倒す成果をあげて、何が問題だってんだい……?」
「だって――コイツらは食材だからな」
「はぁっ!?」
ダイギンジョーはあまりのアイディアに頭が追いつかなかった。
「身体の中に石が残ると料理するときに面倒だろう」
「そ、そういうことじゃなくて、ダンジョンのモンスターを食おうってのかい!?」
「ああ、そうだ。……もしかして、ダイギンジョーともあろう者がモンスターを料理することもできないというのか? ジーニャスが一番の料理人だというから期待していたのだがな……」
売り言葉に買い言葉。
その挑発に対して、ダイギンジョーはカチンときた。
「できらぁ!! よっ~~~く見れば、肉質的に料理できそうでぃ! 身体の中に石が残るのは、取り除くのが面倒だから次回から何とかしろってんだ! ばーろー!!」
「ああ、了解」
ダンジョンの一エリアを踏破したので、とりあえず作業を開始することにした。
誰も手を付けていない鉱石をツルハシで掘る前衛、掘ったそれらとドードーを安全な場所へ輸送していく後衛。
この作業が終わったら次のエリアを目指して、これを繰り返していくという感じだ。
結果、莫大なネコウカと食材が手に入った。
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