猫、地下労働から成り上がれ!
――というわけで猫にされて、地下労働施設へ放り込まれたのであった。
ここでの労働は地下迷宮の鉱石採掘や、そこに巣くうモンスター掃除だ。
成果に応じてネコウカという金をもらえるが雀の涙だ。
ノアクルは過酷な鉱石採掘を終えて、5000ネコウカを得た。
袋に入った食パンの耳を1000ネコウカで買って、あとは貯金しておいた。
ちなみに焼き魚は4000ネコウカ、マタタビ酒は一杯1000ネコウカ、高級食品であるチュルーンは15000ネコウカだ。
「猫の生活がこんなに過酷だとは思わなかったぞ……」
ノアクルは辛い顔をして、砂トイレのあとの手洗いの水を見て自分の姿を確認した。
元々が金髪碧眼だったので、金色の体毛の蒼い眼をした猫になっている。
やけに不細工っぽくなっているのは気のせいだろう。
性格のせいとか言われたら泣く。
つい猫の習性から毛繕いをして、毛玉を吐き出してしまって情けなさが半端ない。
「身も心も猫になってしまった……」
ギャグみたいな展開だが、これまで出会った中で一番ヤバい状況なのではないかと思ってしまう。
猫の神とはいえ、本物の神の不興を買ってしまったのだ。
一瞬にして、問答無用で相手を猫にするという恐ろしい反則ワザ。
もし、海上都市ノアからの救助がきたとしても、ずっと猫のままで生きなければならない可能性が高い。
「どうして」
そんな言葉が、空虚な心境から生み出されてしまう。
人間状態で言ったらそれなりに絵になるかもしれないが、今は猫なのでやはりギャグにしかならない。
トイレからトボトボと出て行くと、見知った猫が出迎えてくれた。
「殿下! テンションが低いですわね!」
ノアクルと同じような毛色と眼色だが、一回り小柄な雌猫――ローズだった。
「お前のテンションが高いだけだと思うが……」
「猫になれたのですから、そりゃテンションも高くなりますわ! 夢のようですわ!」
「お前って割とヤバい奴だと今わかってきたぞ……」
「殿下には言われたくないですわ!」
ローズは猫になった人生――もとい猫生を満喫していた。
何が楽しいのかわからないが、普通の行動一つ一つにテンションを高くするという異常者だ。
何度も言うがここは強制地下労働施設である。
周囲はノアクルと同じようにゲッソリとした表情の猫たちしかいない。
逆に監視する側の猫たちは、舌なめずりをしながら鞭を振るっている感じだ。
「パラダイスですわー!」
「やっぱり頭がおかしい……」
そこへ追加で一匹の猫がやってきた。
茶色の毛をした雌猫――ジーニャスだった。
いや、正確にはジーニャスだったもの、だろうか。
「ちゅる~ん美味いですにゃ~! にゃはは~!」
最初は節約生活をしていたのだが、目の前の高級餌に耐えきれずに15000ネコウカのちゅる~んを購入してタガが外れてしまったようだ。
猫になるということは人間性を捨てるということ。
ノアクルは憐れな目で、ジーニャスだったものを眺めることしかできない。
「ノアクル、そろそろいいかしら?」
最後に声をかけてきた一匹――それは犬。
レティアリウスだった。
彼女だけなぜか猫にならず、犬にされていた。
正確には、最初は猫っぽくなっていったのだが、最終的には犬に落ち着いたのだ。
もうおかしいことだらけなので突っ込まないことにした。
「全員集まったな、それじゃあワンニャン作戦会議だ」
四匹は監視役に見つからない死角、みすぼらしい小屋の裏側にやってきた。
猫会議は見つかってしまうと監視から鞭を振るわれてしまう可能性が高い。
なので、こうやって隠れながらやるしかないのだ。
「さて、ここ数日で集めた情報をまとめていくか。地下労働施設から抜け出して人間に戻るために」
「え~、ずっと猫でいいのでは? 幸せですわ~」
「う゛ぃえええーん!! 食べただけで何もしてないのに……ちゅる~んがもう無くなったにゃ~!! これがないと生きていけないですにゃ~!!」
ノアクルが話を切り出そうとしたのだが、先にローズとジーニャスを正気に戻さないといけないらしい。
「ローズ……お前の父親――アルヴァさんが今の姿を見たらどう思う?」
「うっ」
猫っぽい仕草をしていたローズだったが、父親であるアルヴァ宰相の名前が出た瞬間に表情を引きつらせてしまった。
さすがに肉親にこれを見られる羞恥プレイを想像して、強制的に冷静になったのだろう。
「ジーニャスには……これだ!」
「にゃ!?」
鉱石掘りで出たクズ石を使って、スキル【リサイクル】で船のミニチュアを作ってやった。
それを見たジーニャスは船上にいるときの目に戻った。
「それじゃあ作戦会議を始めるぞ」
「わ、わかりましたわ……」
「アイアイサー!」
二人は冷静になり、各自が集めた情報などを持ち寄って現状整理をした。
まず始まりは――数日前、猫神に猫にされてしまったことだ。
どうやら猫神は海賊に対して敵意を持っているらしい。
そのあとに地下労働施設に連れてこられた。
ここは同じように何かの罪などで猫にされた者たちが強制的に働かされる場所だ。
仕事内容は鉱石掘りや、モンスター退治。
サボると監視役から鞭が飛んでくるし、働いてネコウカを稼がないと生きていけない。
ネコウカによって買える物は食品や日用品、それと一日外出券だ。
その券を使うと監視が付くのだが、一日だけ地下労働施設の外へ出られる。
もっとも、500000ネコウカとかなり高価な物なので、手頃な食品や酒などで散財する者がほとんどだ。
「レティアリウス、頼んでいた脱出の道は見つかったか?」
「隙を見つけて探ったけど、猫どころかネズミ一匹出られる隙間もないわねぇ。監視を殴り倒してもいいなら可能だけど、それであの猫神に目を付けられたら元も子もないわ」
「むぅ、どうにかして一日外出券を手に入れるしかないか……。問題は、出られたとしても、この猫の姿のままどうするかということだ……」
「やっぱりそこですにゃ~。色々と考えても、どうしてもそこでどん詰まりですにゃ」
それが四匹が出した結論だった。
猫の姿にされてしまった時点で詰みだ。
ここにいる猫は長い年月働いている者もいるし、それを見るに自然に解けるものでもなさそうだ。
――その日は結局、何も名案は浮かばず解散となった。
***
次の日、ノアクルは割とマジメに鉱石掘りをしていた。
何だかんだ窮地は慣れているのでメンタルが安定しているのだ。
(こんなことに慣れたくはないが、イカダで海に流されたときよりはずっとマシだしな……)
隣には同じように作業をするダイギンジョーがいた。
ここ数日と同じように話しかけてみた。
「よう、ダイギンジョー」
「うるせぇ、あっしに話しかけてくんな」
「いつものように嫌われているな、俺」
特に嫌われるような行動はしていないが、大体の返事がこんな感じだ。
全員に対してこうではなく、ノアクルに対してだけ当たりが強い。
さすがにどうしてかを聞いてみることにした。
「なんで嫌われてるんだ、俺」
「あっしは偉そうな奴が嫌ぇだ。聞けばお前さんは、あのアルケイン王国の元第一王子だったらしいじゃねぇかい。しかも、今は海上国家ノアだかの主で、ジーニャスお嬢ちゃんの上にいる」
「なるほど、たしかに俺はとても偉い」
「はっ! そういうのが鼻持ちならねぇってんだ! どうせ飽きたらすぐポイってするんだろうぜ! 人や猫もゴミのようにな!」
「ふぅむ、俺は使えるゴミは好きだぞ?」
「なめんな! もう話しかけてくんなし!」
さすがに話しかけてくるなと言われたので、話しかけることは止めた。
それからしばらくすると、横から監視の怒鳴り声が聞こえてきた。
そちらの方を見ると、どうやらダイギンジョーに対して監視が鞭を振るっていたようだ。
「おらっ! もっと働くにゃ!」
「ぐぅ! ちゃんと規定量の仕事はやってるじゃねぇか!」
「うるせぇにゃ! ダイギンジョー、お前は一日外出券を使ったのに海賊仲間と接触して本当にろくでもない奴だにゃ! 鞭で打たれて当然にゃ!」
「ただムカついたってだけじゃねぇか! ちきしょうめ!」
ちなみにダイギンジョーは、ここで元々働いていた猫の一匹だ。
ノアクルたちと表で会ったときは、一日外出券を使っていたという。
そこまでして外で何をしたかったのはわからないが、さすがにただ見ているわけにもいかない。
採掘作業で出たゴミ――クズ石を投げつけた。
「にゃっ!?」
それは監視の猫を直接狙ったものではなく、目標はその鞭だ。
スキル【リサイクル】でクズ石をコの字型にして、壁面と鞭を挟むようにして同化させた。
結果、鞭が壁面にへばりつくような形となって、監視の猫はダイギンジョーを叩けなくなった。
「猫の虐待は動物愛護団体に怒られるぞ?」
「くっ、貴様は新入りの海賊……ノアクルだにゃ!? こんなことをしてタダじゃ――」
「まだまだクズ石はあるぞ?」
ノアクルは手の中でクズ石を転がしてみた。
監視の猫は得体の知れない力を使うノアクルに対して後ずさってしまう。
「お、覚えてろにゃ! いつか痛い目に遭わせてやるにゃ!!」
そう言いながら監視の猫は逃げていった。
「猫でもそんな捨て台詞吐くんだな……。ローズが聞いたらまた幻滅しそうな案件だ」
やれやれと思いながら、倒れていたダイギンジョーに声をかけようとしたが既にいなくなっていた。
どうやら猫たちに嫌われているようだ。
それから再び、ノアクル、ローズ、ジーニャス、レティアリウスで作戦会議が行われていた。
「さて、どうするか……」
会議は踊らず、しかも進まない。
真剣にどうにかしようとしても、無理なものは無理なのだ。
この地下労働施設に入ってしまった段階で、外の情報などが非常に集めにくいというのもある。
「やっぱり、一番の問題は猫化の解除だよなぁ……」
「ふんっ、やっぱりお前さんはその程度のことで困ってるってことだなぁ! まっ、仕方がねぇから任せな。それについてはあっしに良い考えがあるってんだ」
作戦会議をしている小屋の裏に一匹の猫が割り込んできた。
それは――
「ダイギンジョー!」
腕を組みながら、壁に背を預けていた元料理長だった。
――――――――
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