第五章 あっしは猫の料理人

希望の新海域へレディーゴー!

 最近、海上都市ノアに人が増えたことによって〝ある問題〟が出始めていた。

 それは――料理だ。

 しかし食糧問題などではない。


 食材に関しては海の上なので海産物が豊富に捕れるし、大地の加護もあって農作物も必要最低限が育つ。

 それ以外の肉などに関しても港に寄ったときに仕入れたり、たまに見かける大型の飛行モンスターなどで鶏肉っぽいものも得られたりする。


 では、なぜ料理か?

 問題は料理人なのだ。

 海上都市ノアに乗り込んできた者の中には料理人もいた。


 マリレーン島の海賊、黄金の島ラストベガの獣人、城砦浮遊都市の人間。

 これだけいれば、それぞれの業種はかなりのもので、海上都市ノアだけでそれなりの経済活動が回せるほどだ。

 しかし、それでも海上都市ノアは特殊な環境だ。


 海の上を移動して、多種多様な人種の坩堝となっている。

 その環境の中、めまぐるしく移り変わる食材で、各々が満足する料理を提供するのはとても難しい。

 その問題を話し合った結果、ひねり出された解決の糸口は――


「料理人たちのトップ……つまり料理長のような人物を連れてくるということか?」

「その通りですにゃ! 実は私の知り合いに――というか父のフランシス海賊団の元料理長〝ダイギンジョー〟が、隣の海域で修業をしていると風の噂で流れてきたのですにゃ!」


 主要人物に見守られながら、ジーニャスは自信満々に言い放ってきている。

 ノアクルも彼女を信頼しているが、周囲にはあのローズやアスピなどもいるので念のために確認をしておくことにした。


「この流れで出てくるということは、その〝ダイギンジョー〟とやらは……かなりの腕前を持つということだな?」

「はいニャ! 彼はどんな食材でも美味しく料理してしまう、神の舌を持つ猫なのですにゃ!」

「ほう、そこまでの料理人なのか……。って、猫……?」


 ノアクルは一瞬、普通の猫を想像して首を傾げてしまったが、たぶんジーニャスと同じような猫獣人なのだろう。

 もしかしたらスパルタクスのように頭部の骨格が動物そのままでモフモフの可能性もあるかもしれないが、彼と言われたので男のはずだ。

 個人的にはここ最近、女性陣のパワーがすごすぎて押され気味なので、気軽に話せそうな同姓が増えるのは嬉しいと思ってしまう。


「よし、それなら善は急げだな。特に予定もないし、隣の海域へ向かおうではないか!」


 そう意気込むノアクルに対して、ローズが横から止めに入ってきた。


「お待ちください、殿下。隣の海域――ディロスリヴ海は、ディーロランド王国に非常に近くなっていますわ。アルケイン王国付近なら強引に権利を主張できますが、さすがに他国に対してこの海上国家ノアがいきなり向かっては問題となります」

「むぅ……。なるほど……」

「そこでディーロランド王国のラデス・オルク・ディーロランド王の下へ出向き、通商航海条約を結ぶことを提案いたしますわ。丁度、他国に対するマナーなどの座学の成果も見られますし」

「ふんっ、他国への礼儀など最初から染みついておるわ! 監禁拷問のような座学によってさらに鋭くなった、この俺の手腕を見せてやろう!」

「成長なされて……殿下……ジ~ンとしてしまいますわ……」


 こうしてノアクルとローズ、ジーニャス、アスピ、スパルタクスがディーロランド王国の王城がある城下町へ出向いたのであった。




 ***




「ふはははははは! ふはは!」


 なぜかノアクルは牢屋に入っていた。


「ゴミ捨て場でゴミを漁る不審人物を発見したが……自分を『アルケイン王国の元第一王子』とか『俺は海上国家ノアのトップだ、この国の王に合わせろ!』だとか言って怪しすぎたので投獄してしまった。オレ……こんな変人を捕まえるより、もっとまともに兵士をしてぇわ……」


 さっそく、ディーロランド王国にご迷惑をかけていた。

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