海上都市ノアVSウォッシャ大佐
「ククク……油断したな、ゴミ共め! このウォッシャ・ヨッシャの最強の船――〝51門ウォッシャ専用艦ゴッシャー号〟が海賊時代を終わらせてくれるわ!」
大型艦の上でふんぞり返るウォッシャの大声が海へ響き渡った。
「くっ、あのデカい船はウォッシャ大佐かにゃ!? なんて卑怯な……。ミディの船は大丈夫!?」
「あまり芳しくはない……僕のことはいいから逃げろ」
通常航行が不可能となったミディの船は即座に動けず、その場に留まっている。
海の男として、ジーニャスに助けを求めるという情けないことはできない。
そこへ再びウォッシャの声が響き渡る。
「逃がすか! もちろん、ミディ・オクラの船も誤射しても構わん。あとで海賊にやられたことにすればいいだけだからなぁ!」
大型艦たちが徐々に距離を詰めて迫ってくる。
ウォッシャの船は金に物を言わせた特注品で、右に25門、左に25門、正面に1門が付いている。
初撃は正面の長距離用の1門だったために威力は然程でないが、近付いた場合は25門の強力な攻撃魔術が飛んでくるだろう。
そうすれば一巻の終わりだ。
「くっ、どうしたらいいにゃ……」
相手は大型艦と、護衛の船二隻――計三隻だ。
それに対してミディの船は動けず、ジーニャスのゴールデン・リンクスだけで戦うことになる。
装備されている杖の合計数は十倍以上も違う。
ジーニャスの海の知識、船員の練度などで圧倒しても、さすがに勝てる確率は0%だろう。
「船長! あの鈍そうなデカブツ相手なら逃げちまえば――」
「ミディを置いて逃げることはできないにゃ……! 間違いなく、私たち海賊のせいにして口封じをされるにゃ……!!」
残る手段は速度勝負の逃走だけだが、それもジーニャスは選ぶことができないようだ。
「僕のことはいいから逃げろ、ジーニャス!」
「これはミディ君の問題じゃない。海賊の矜持だにゃ……お父さんなら、きっと逃げない」
ジーニャスは船を動かさず、その場に留まった。
ウォッシャ大佐たちの攻撃が始まる。
「ククク……。死ぬ覚悟ができたようだなぁ! 撃て、撃ちまくれぇー! ゴミはゴミらしく海に撒き散らせぇー!!」
攻撃魔術がゴールデン・リンクスの付近に着弾し、次々と水柱を上げていく。
練度が低く精度が悪いのだが、このまま当たってしまうのも時間の問題だろう。
ジーニャスたちは海の藻屑と消えると思われた、そのとき――
「ゴミを海に棄てるのはダメだろ」
緊張感のない声がした。
それは海戦が行われている場には不似合いなイカダからだった。
「ん? イカダだと……? あの海賊たちが用意した伏兵か? だが、あんな遠くの距離から、こちらに攻撃はできまい」
ウォッシャ大佐は勝利を確信して安心しきっていた。
普通なら、絶対に〝51門ウォッシャ専用艦ゴッシャー号〟が負けるわけない。
そう――普通なら。
「ムル、魔大砲の照準はこれでいいのか?」
「うん~、風向き、距離はあってる~。百パーセント命中するよ~」
「よし、それじゃあ
魔大砲が急激に魔力を集め、砲身が輝き始める。
それは現在の杖と違い、古代文明の恐るべき破壊兵器の片鱗を見せつける。
「ウォッシャ大佐! あのイカダから急激な魔力反応が!?」
「なにィィィ!?」
ノアクルが所有者権限を使い、魔大砲に込められた破壊の力を解放する。
「使えないゴミに向けて――魔大砲、発射だ」
轟音。
放たれた輝きは大海を割り開き、神々の槍のように飛来して、直線上に並んでいたウォッシャたちの船を三隻同時に穿った。
穴の空いた巨大な船が、オモチャのように傾いていく。
「ダメです、ウォッシャ大佐!! 浸水しています!! 被害が大きすぎて船大工総出でも塞げません!!」
「お、オレの全財産をかけた〝51門ウォッシャ専用艦ゴッシャー号〟だぞ!? 海賊の財宝を使ってさらに強化する予定だったってのに……何とかしろォ!! 無能なゴミ共ォ!!」
「この状況で何とか……できるはずないですよ!! も、もうお前の下で副官なんてやってられるか!」
「ま、待て!! オレだけ置いて脱出をするな!! オレはウォッシャ・ヨッシャ大佐だぞ!? ……チクショオオオオオ!! あのイカダめええええええ!!!!」
――こうしてマリレーン島の模擬戦は、ノアクルの魔大砲によって終了したのであった。
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