ウォッシャの卑劣な罠
模擬戦が始まる朝、ウォッシャは水パイプを吹かしながらほくそ笑んでいた。
「ククク……あの小娘が生きて帰ってくるとは予想外だったが、まさか再戦を申し込んでくるとはなぁ……」
大海賊フランシスの財宝を狙っていたウォッシャは、ジーニャスの存在がジャマだった。
今までも強引に海賊の村を蹂躙してもよかったのだが、忘れ形見であるジーニャスが生きていた場合、再び旗頭となって復讐に来る恐れがあるからだ。
私掠船免許を捨てて無法となった海賊団ほど恐ろしいものはない。
大きな港を壊滅させた歴史がいくつもあるくらいだ。
そこでまだ私掠船免許を取り上げられないタイミング、法を遵守するしかない模擬戦で事故死に見せかけて、済し崩しに海賊の村も壊滅させる計画を立てていたのだ。
頭さえいなければ烏合の衆であり、注目株であるジーニャス以外の木っ端海賊など、島の主であるウォッシャによってどうにでも揉み消せる。
――というのが、本来の計画だった。
「あの状況からどう生き延びたのかはわからないが、今度は念入りに……海のゴミである海賊を真っ正面から潰してやるか……。おい、今回の船員の手はずは整っているんだろうな?」
ウォッシャはギロリと副官を睨み付けた。
副官としては、前回の失敗の責任で首が飛びそうなので必死だ。
「はっ! こちら側の船員は成績上位の者から選びました! 並びに、ジーニャス・ジニアスの船へは貧困層の学生を用意し、戦闘になったら足を引っ張るように賄賂を渡して指示しました!」
「ククク……そうだ。それでいい。前回は貴様の生ぬるいやり方で学生を脱出させてしまったからなぁ」
「は、はい……申し訳ありません」
「今度は他の学生ごと沈めろ」
「し、しかし……」
「海軍大佐である、オレの言うことが聞けないのか?」
「そ、そんなことはありません! 失礼しました!」
「そうだ。わかればよろしい。ククク……ジーニャスの奴は一時間も波に揺られれば船酔いだ。今度の模擬戦の場所指定はさらに遠くにあり、移動時間も考えれば戦っている最中、すぐに船酔いになって終わりだろう」
前回は船の移動が一〇~二〇分程度だったのに対して、今回は移動で五〇分程度かかる。
ジーニャスが実際に戦える時間は十分程度しかないだろう。
少し逃げ回れば海軍学校側の勝利だ。
「し、失礼します!」
もう一人の副官が慌ててやってきた。
「なんだ、騒がしい」
「ジーニャス・ジニアスの船に乗るはずだった学生たちが素っ裸で縛られているのを発見しました!」
「なにぃ!? どういうことだ!!」
「ど、どうやら制服だけ奪われたようです……」
そこでウォッシャはハッとした。
「まさか、海賊たちか!! ……しかし、船長が船酔いではどうしようも――」
「それが……意味深なことを言っていたらしいです。『もう船酔いは解決した。正々堂々とかかってこい、使えないゴミ野郎』と」
「……なんだと」
ウォッシャは嫌な予感で脂汗を浮かべていた。
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