ジーニャス海賊団

「のぉ、ノアクルよ」


 ――海賊の村を訪問した次の日の昼。

 マリレーン島の端にある廃材置き場でノアクルが材料集めの最中、アスピが話しかけてきた。


「どうした」

「ジーニャスに協力して、大っぴらに海軍と戦うということは……この島で隠れて生活できる可能性を捨てるということじゃぞ? 人間――ノアクルにとっては島で暮らした方が、イカダの上で生活し続けるよりずっと楽じゃろ。なぜ手を貸す?」

「それくらいは天秤にかけて行動をしている。俺を信じろ」

「はぁ……仕方がないのぉ。一蓮托生になってしまったからには、ワシも協力してやるわい」


 あいかわらず眉間にシワを寄せるアスピだったが、それなりにノアクルのことは信頼しているようだ。

 やれやれ、と作業再開をしようとしたところでジーニャスの声が聞こえてきた。


「ノアクル様ー! 言われた通りに校長へ交渉したら、再戦が決まりましたにゃ!」

「そうか、よくやった」


 ジーニャスはあれから朝を待ち、海軍学校の校長室へと向かった。

 海軍学校に戻ってくるとは思わなかったウォッシャ大佐は驚いた表情だったが、ヘタに追い払うと自分側の不正をバラされる可能性を恐れたのだろう。

 それくらいジーニャスは人が変わったように堂々としていたのだ。

 まるで大海賊のような雰囲気を漂わせていたといっても過言ではない。

『前回の模擬戦のことはすべて運がなかった』と笑って、今度は『船員を自分で選びたい』と交渉をした。

 それはウォッシャ大佐からしたら願ってもないチャンスだ。

 見事食いついて再戦が決定した。


「……だが、あの悪人面のウォッシャがただ再戦を引き受けるはずがないな」

「な、何か新しい罠でもあるというのですかにゃ……?」

「そのときは……お楽しみだな!」


 ノアクルは意味深な含み笑いをして、ジーニャスはわけもわからず首を傾げるしかなかった。


「といっても、罠がない場合でも普通に負けてしまったらシャレにならん。準備はきちんとしなければな」

「ノアクル様、船はどうするんですにゃ? お父さんの船、ゴールデン・リンクスはボロボロになったあげく、無慈悲に素材へ変換されてしまいましたし……」

「無慈悲にっておま――いや、あれはさすがに俺も悪いと思っている。そんな大事な船だと知らなくてだな……。だから、再びゴールデン・リンクスを造るぞ」


 それを聞いたジーニャスは信じられないという顔をしていた。

 常識的に考えて、造船という大仕事が一日で終わるはずないのだ。


「そんなの無理に決まってますにゃ!」

「普通ならそうだろう。ところが俺ならできる」


 海賊たちに協力してもらい、イカダから運んできたゴールデン・リンクスの素材をスキル【リサイクル】で再構成する。

 それが徐々に船の形を取り戻していく。


「これじゃあ材料が足りないから、ここらへんにある廃船も利用して……っと」


 この廃材置き場は船の墓場にもなっていて、それらが素材に変換されてゴールデン・リンクスへ吸い込まれていくような形になっていく。

 そして、一隻の船が完成した。

 三本の大きなマストに帆がなびき、船体の黄金のペイントが陽光で煌めいている。


「こ、これは……ゴールデン・リンクス……!? しかもお父さんが乗っていたころみたいに新品だにゃ……!! ど、どうして!?」

「はっ、俺にかかれば朝飯前だ! 楽勝だ、楽勝!!」


 ドヤ顔を晒すノアクルだったが、横にいたムルが笑顔でネタばらしをした。


「ノアクルは一睡もせずに~、ゴールデン・リンクスの図面を手に入れて一生懸命に造船の勉強をしたり、海賊さんに協力してもらって当時のことを聞いたりしてたよ~」

「ばかっ! 格好悪いからそういうことは言うな!」

「あはは~、ごっめ~ん!」

「ったく、あとは素材にしたときに何となく構造が手から伝わってきたのと、スキル【リサイクル】で補正がかかるからだ。テキトーな作りにはなってないはずだから安心しろ」

「ノアクル様……何から何まで……ありがとうございますにゃ……」

「というわけで俺は寝る。あとはフランシス海賊団……いや、ジーニャス海賊団の実力次第だ」


 ジーニャスはコクリと頷くと、海賊帽をしっかりと被り直した。

 そして、周囲に待機していた海賊たちに大声で檄を飛ばす。


「ジーニャス海賊団の野郎共、いくにゃー!」

「「「「「オォーーーッッ!!」」」」」


 その振動は大海を揺さぶり、まるで一つの時代のうねりのようだった。

 復活した海賊団は今、再び海へと漕ぎ出す。

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