ノアクルの寝室にて

 そのまま時間も遅くなり、ノアクル一行は村に泊めてもらうことになった。

 ノアクルは一人部屋をあてがわれ、ベッドに座ってボーッとしている。

 そこへノックとジーニャスの声が聞こえてきた。


「ノアクル様、まだ起きていますか?」

「ああ、まだ眠くない」

「少しお話してもよろしいでしょうか……?」

「わかった、今着替えて外へ――」

「い、いえ! 私が押しかけてしまったので、どうかそのまま楽にしていてください!」


 ノアクルが寝間着を脱いで素肌を晒した瞬間、タイミング悪くジーニャスが入ってきた。

 二人の目が合ってしまう。


「あ」

「し、失礼しましたー!」

「……普通、こういうのって俺がラッキースケベする方だろ……」

「わ、私も脱ぎますのでそれでおあいこということにーッ!!」

「いや、冗談だからな!? 変な誤解を招くことは止めろよ!?」


 混乱して本当に服を脱ごうとするジーニャスを全力で止めてから、二人でハァハァと息を切らしていた。

 こんなところを見られたらと思うと気が気ではなくなり、ドアの外にいるジーニャスをグイッと引き寄せて部屋へ連れ込んだ。


「そ、それで……はぁはぁ……話はなんだ……はぁはぁ……」

「そ、それは……はぁはぁ……私自身の……はぁはぁ……ことで……」

「……待て。こんな息を切らせていては絶対に勘違いされる。座って休もう……。でも、椅子がないな……」

「それなら私が床に座るので、ノアクル様がベッドへ!」

「さすがに女の子を床に座らせるわけにはいかないだろう……俺が床へ……」

「ノアクル様は第一王子なんですよ!? 床へ座らせるわけにはいかないですよ!」


 結局、謎の譲り合いが発生して二人してベッドに腰掛けることになった。

 想像以上に距離が近い。

 少女の息づかいや、思ったより華奢な肩が触れそうで体温すら伝わってくる気がする。

 お互いに気まずくなり、無言。

 ジーニャスの猫耳がピクピクと動いていて緊張が伝わってくる。

 耐えられなくなったノアクルが先制攻撃を放つ。


「そっ、そういえば語尾に『にゃ』を付けないのか? なんかさっきから付けてないし……」


 語尾に『にゃ』を付けていれば、まだギャグっぽい雰囲気で誤魔化せる気がする。

 頼む付けてくれ! という祈りすら込められている。


「そ、それはノアクル様があんなことを言うから、二人っきりのときは普通にしていようかなって……」


(このタイミングで俺を意識していそうなことを言うのは止めろおおおお!!!!)


 魂の叫びを発しそうになったが自分のキャラではないので我慢した。


「ぐっ……!」

「ぐっ?」

「ぐっと堪えたということだ! それで話はなんだ、単刀直入に言え!」

「は、はい! ノアクル様だけにヒミツを話したいなと……」

「ヒミツだと?」

「い、いえ、ヒミツというほどではないのですが、何というか私の昔話と海軍学校のことです」


 どうやらマジメなことらしいので、ノアクルもそれに相応しい返事をする。


「そうか、誰かにそういうことを打ち明けるのは勇気がいるだろう。それに俺を選んでくれたのは嬉しいぞ」

「はっ、はい!」


 なぜかジーニャスは猫耳と尻尾をピンと立てている。

 何かまずいことを言ったのかもしれない……と不安になってしまうくらいだ。


「ど、どうした?」

「いえ、本当に王子様なんだなって……」

「たぶん、王子になっていると思うがな。ハハハ!」

「あはは、不思議な人ですね。どこか亡くなった父に似ているような気もします」

「ジーニャスの御父上に似たところがあるとは、光栄なことだな」

「そうですね……それでは、まずは父の話からしましょう。あれはまだ私が物心ついた頃――」

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