海賊の村の宴

「き、貴様! 何者だ!!」

「俺か? 俺は使えるゴミだ。それに対して命令を出しているお前は使えないゴミのようだな」

「なッ、なにぃ! 貴様! このオレ様を誰だと思っている! ウォッシャ・ヨッシャ大佐だぞ!」

「使えない大佐程度の名前なんて覚えていられるかよ」

「……どこの誰だかわからんが……もう許せん! この村ごと、全員処分を――」


 一触即発のノアクルとウォッシャ大佐率いる海兵たち。

 そこへ遅れてやってきたジーニャスが割り込んでくる。

 どうやら途中で落下してしまっていたようだ。


「お、お待ちください!! ウォッシャ大佐、これはいったいどういうことなんですかにゃ!?」

「大海賊の娘ジーニャス・ジニアス……生きていたのか……。ちっ、それなら事情が変わった。撤退だ」


 苛立ちを隠せない表情でウォッシャと海兵たちは、意外なほどにあっさりと引き上げていった。

 バサッと降り立つムルが首を可愛く傾げながら聞いてきた。


「追撃して始末しなくていいの~?」

「なかなかに過激なことを言うなムルは……。それより今は家の消火が先決だ。事情も聞きたいしな」

「了解~」

「といっても、かなり燃え広がっているから大量の水が必要だな。ジーニャス、ここに大きな水源はあるか?」


 緊急事態で慌てふためいていたジーニャスだったが、ノアクルの一言で我に返った。


「こ、ここは海から離れていますし、小さな井戸が一つあるだけですにゃ。そこから水を運んできて……」

「それじゃあダメだな、他の家に燃え移る可能性がある。仕方ない……。おい、坊主。あの家はもう捨てるか?」

「えっ、僕とお母さんの家を捨てる……?」


 突飛なことを聞かれた子どもはキョトンとしてしまっている。

 しかし、今は一刻を争う。


「あとで材料を再利用して建て直してやるから、今はアレを捨てると言え」

「こ、この人は信用できる人だから言うとおりにしてにゃ」

「ジーニャス姉ちゃんがいうのなら……わかった。捨てるよ……」

「わかった。じゃあアレはゴミだな! スキル【リサイクル】!」


 ノアクルが手をかざすと、元は木造であったであろう家が一瞬にして素材に変換された。

 火は別の離れた地面に分離させたため、一瞬で消え去った。

 そこから他の家を見せてもらい、形をイメージしてスキル【リサイクル】を使って半自動で組み上げる。

 燃えてしまった材料が若干足りなかったが、村に備蓄してあった素材で補った。


「あ、ありがとうございます! 坊やも助けて頂き、なんてお礼を言ったらいいのか……」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

「礼などいらん」

「では、せめてお名前でも……」


 海賊村の母と子に名前を問われ、ノアクルは自信満々で返答をした。


「名乗るほどのものではない。……が、敢えて名乗るとすれば、ただのゴミだ!」

「……は?」

「ノアクル様、初対面でそれはちょっと頭がおかしすぎるにゃ……」

「ふぅむ、そうなのか」


 そんなやり取りをしていると、母と子だけではなく他の村人たちも集まってきていた。


「の、ノアクルって……まさか……処刑されたはずの第一王子のノアクル様!?」

「うそだろ!?」

「そんなまさか!?」


 あまりのリアクションの大きさにノアクルは戸惑ってしまう。


「お、おい……ジーニャス。お前が俺の名前を出したら注目されてしまったぞ……」

「し、失礼しましたにゃ……」


 すぐに海賊たちに取り囲まれた状態になってしまったのだった。

 かなりの強面こわもてなどもいて冷や汗が出てくる。




 ***




「さぁさぁ、どんどん食べて飲んでくれ! 村の恩人だ!」

「酒は飲まないが、久々の陸の食事は頂こう」


 十分くらい前には海賊に囲まれていた状態だったが、今は酒や料理に囲まれている。

 簡単に言えば一番大きなジーニャスの家で海賊たちのもてなしを受けているのだ。

 陸の料理が恋しいと言ったら、すぐに肉や山菜を用意してくれたのでありがたい。


「いやぁ、俺が処刑されたはずの王子だとバレて囲まれたときは、これから違う意味で〝もてなし〟をされるかと思ったぞ。暴力的な感じの」

「うちの船員たちはそんなことをしませんにゃ。海賊は海賊でも、正義の海賊ですからにゃ!」

「ハハハ! よしてくださいよ船長! むず痒くならぁ!」


 どうやらジーニャスはただのコスプレ少女ではなく、本当に海賊たちから船長と慕われているようだ。

 それでも海軍学校に入り、なぜか海軍大佐に村を襲撃されて、すぐに退却させることができたという謎が残る。


「ジーニャス、お前はなぜ……」


 彼女に問い掛けようとしたのだが、その意図に気付いた表情は明るくはなかった。

 たぶん、この場では話したくないことなのだろう。

 ノアクルはそれに考慮して、別の話題に言い直す。


「あー……お前はなぜ、語尾に『にゃ』を付けているんだ」

「にゃ!? そ、それは……」

「それは?」

「か……可愛いかなって思ってです……にゃ」

「十年後の黒歴史になりそうだな」


 ジーニャスは顔を真っ赤にして、それを両手で覆い隠してしまった。

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