海軍学校の島

「到着しましたにゃ。ようこそ、マリレーン島へ」


 イカダがやってきたのは、整備されていないほったらかしの古い港だ。


「こちらはもう使われていない港なので、海軍に見つかりにくいですにゃ」

「助かる」


 そこへロープを繋いで、ノアクル一行は島へと降り立った。


「マリレーン島か……何か聞いたことがあるような……思い出せん……」

「にゃはは……ノアクル様がそう仰るのも無理はありません。以前は海軍と海賊たちが本拠地を構えていましたが、今では海軍学校と小さな村がある程度ですにゃ」

「そうなのか」


 そのタイミングでアスピが質問をしてきた。


「ノアクル、お主はここからどうするのじゃ?」

「そうだなぁ……」


 とりあえずジーニャスを陸地に送り届けるのは終わった。

 海軍を警戒してすぐに海へ戻ってもいいのだが、久しぶりの有人島というのもある。

 何かこれからの航海で役立つものがあるかもしれない。


「ノアクル様、お礼もしたいので村へご招待したいのですにゃ」

「村……か……」


 海軍学校にある島にある村というのをイメージすると、誘い込まれて包囲、そのまま拘束されるというパターンが浮かぶ。

 同じことを思ったのか、アスピが口を挟んできた。


「ふぅむ、いきなりだまし討ちとかは無しじゃぞ?」

「い、いえ、元海賊たちが主体の村なので……」

「元海賊といえど、私掠船免許持ちなら海軍と同じようなものじゃ」

「うぅぅ……ええと……本当にそんな気持ちはなくて……」

「ジーニャスからは~……悪意のニオイがしないから大丈夫~」


 ムルがクンクンと、ジーニャスのニオイを嗅いでいた。

 ジーニャスは恥ずかしそうに照れている。


「ムル、そんなことがわかるのか?」

「何となく~」

「よし、それならジーニャスを信じる」

「それだけで信じるんですかにゃ!?」

「俺と、俺の仲間はみんな使えるゴミだからな」

「お主、ナチュラルに自分を含めてゴミ扱いするのはヤバいのじゃ……」


 呆れ顔だがアスピも納得はしてくれたようだ。


「では、海賊村へ出発ですにゃ!」




 ノアクルたちは森の中を進んでいた。

 特に危険な魔物もおらず、気候も丁度すごしやすい雰囲気だ。

 ただ道は整備されていない状態で、雨が降った場合はぬかるんだりしそうだと考えてしまう。


「のぉ、ノアクル」


 アスピが話しかけてきたが、こんな歩いているだけの何もないタイミングだというのが気になる。

 それでも一応は面倒臭そうに返事をしておいた。


「なんだ?」

「お主のスキル【リサイクル】をその辺の木や石に使ってみてはどうじゃ?」

「……何のために?」

「お主が主張する『ゴミにしか使えない』という説を否定するためじゃ」

「断る。そんなポンポンとゴミ以外に使えてしまったら、俺のアイデンティティが崩れてしまうじゃないか」

「……はぁ……神はスキルを与える相手を絶対に間違えているのぅ……」


 アスピには呆れられてしまったが、ゴミと定義するもの以外には使いたくない。

 もし、今までやこれからでゴミ以外に使うことになっても、それはノアクル自身がゴミと定義できたから使用するのだ。

 非常に面倒臭い性格なのだが、実はそれがスキルの力を強めているという可能性もある。


「皆様、もうそろそろつきますにゃ」

「……何か変じゃないか?」

「え?」


 進んでいた方向、木々で遮られていて見にくいがモクモクと黒煙が立ち上っているようだ。

 それにいち早く気が付いたノアクルが急いで指示を出す。


「ムル! 偵察を頼む!」

「了解~!」

「大きな焚き火程度ならいいんだがな……!」


 ムルは一瞬で飛び上がって、すぐに戻ってきた。

 その表情は芳しくない。


「大変、家が燃えてる~……」

「家が!? みんなは無事なんですか!?」

「落ち着け、ジーニャス。今は急いで向かおう」


 ノアクルは走って向かおうとしたが、身体が急に浮き上がる。

 それと頭部への圧力。

 これは以前にも体験したことがある。


「わかった~! ノアクルを急いで連れて行くよ~!」

「ぐああああああああ鷲掴みされて頭がすっぽ抜けるううううう!!!!」


 それにアスピも急いで飛び乗って、ついでにジーニャスも身体に掴まっていた。


「これは新手の拷問かぁああ!?」

「す、すみませんですにゃ! 今は緊急事態で!!」

「俺も頭と胴体がバイバイしそうな緊急事態なんだがぁぁああ!?」


 首がもげないように必死に耐えながら、空の移動が始まってしまった。




 ***




 一方その頃――海賊の村。

 火矢を持った海兵たちが、一軒目の家を燃やしたところだった。


「お~お~、よく燃えるねぇ」

「はい、ウォッシャ大佐!」


 海兵たちの後ろで、背が低く痩せ形の中年がいた。

 それは海軍大佐で、海軍学校の校長を務めるウォッシャ・ヨッシャだった。

 水タバコのパイプを咥えながら、燃える家を見てほくそ笑んでいる。


「海賊はゴミだ。どんどん燃やしてやれ」

「はっ! 了解であります!」


 そこへ泣いている子どもが駆け寄ってきた。


「ぼ、僕の家が……ひどい……」


 どうやらその家の住人だったらしい。

 家と共にこれまでの思い出を焼かれたように思っているのか、その表情は苦悶に満ちている。


「おぉ、可哀想に。生ゴミが燃えるゴミを見て嘆いているぞ。……よっしゃ! 慈悲としてそいつも一緒に燃やしてやろう!」

「えっ? いいんですか……ウォッシャ大佐? いくらなんでも子ども相手は……」

「海賊ってのはゴミなんだよ、ゴミ。その子どもだろうが、ゴミであることには変わりない。……それともお前もゴミなのか? 違うよなぁ……?」

「は、はい。命令、了解であります」


 海兵はウォッシャ大佐の言動に恐怖を感じつつも、火矢の狙いを子どもに定めた。

 それに気が付いた子どもは震え上がり、身をすくませて動けなくなっている。

 遠くから母親が駆け寄ろうとしているが、もう間に合わない。


「私の坊や……!! 誰か……誰か……助けてください……!!」


 無情にも放たれる火矢。

 それは一直線に進み、子どもの柔らかな皮膚を射貫く。

 ――ことはなかった。

 火矢は素材として空中分解されていた。


「放たれた矢ってことは、つまりゴミのポイ捨てだよな?」


 そこには空から降り立ったノアクルがいた。

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