悠々自適なイカダライフ

 ノアクルは、アスピを乗せて再びイカダで大海原へと出発した。

 亀と植木鉢を乗せて少し手狭になったので、流れてくる木片をリサイクルしてイカダを拡張した。

 寝転がって両手両脚を大きく伸ばしても余裕があるサイズだ。


「……こうなるとベッドが欲しくなってくるな」


 ふかふかの羽毛布団……は素材的に無理なので、流れてくる材料を使ってハンモックを作ってみた。

 イカダの上だと揺れすぎてしまうかと思ったが、どうやら大地の加護で揺れが抑えられているらしい。

 丁度良い寝心地だ。

 そうしてリラックスして時を過ごしていると、腹の虫がグゥ~と鳴った。


「メシにするか」


 ノアクルは流れてくる材料を使い、今度は釣り竿を作った。


「あまり釣りはやったことないけど、大丈夫かなぁ……」

「おい、冗談でもワシの前に針を垂らすのはよすのじゃ」

「さすがに亀は釣れないか! では、気を取り直して大海へフィーッシュ!」


 チャポンと釣り針が海に沈み、浮きがプカプカと揺れている。


「どうかな~……。釣れるかな~……まだかな~……」

「お主、釣りに向かない性格じゃな……」


 ノアクルがそわそわしていると、すぐに浮きが沈み込み、竿がクッと軽く引っ張られる感覚があった。

 急いで引っ張り上げると、そこまで大きくないが十分に可食箇所がありそうな魚が釣れた。


「よし、一匹目ゲット! 次だ、次!」


 この辺りの魚は人間をまったく警戒していないので、餌なしの素人でも入れ食い状態だった。

 調子に乗って食べきれないくらい釣ってしまったので、次の段階に移ることにした。


「さすがに内臓は食べたくないから、ある程度は捌かないとな」


 特殊な水流で浮かんできていた鉄くずを使ってナイフを作る。

 釣った魚をそれで下処理して、これまた作った簡易火起こし機で焼き魚にした。


「うひゃ~……うまそ~……。海の上で釣った魚はいつもより輝いて見えるな」


 一応、イカダで直に焼くと焦げそうなので、専用の台を作っている。

 本格的なグリルには敵わないが、即興で作ったにしては上出来だ。


「いただき~ます。アスピも食うか?」

「本来なら身体を維持するために食べなくてもよいが、折角だからご相伴にあずかるとするのじゃ」


 二人仲良くモグモグと焼き魚を食べる。

 亀と人間が並んでの食卓はシュールだが、イカダの上という非日常だとなかなか絵になる。

 食べ終わり、お腹いっぱいになったのでイカダの上で寝っ転がった。


「ふ~……余った魚は保存食として干しておくかな……。塩も作ってあるし……」

「ワシがいうのもなんじゃが、お主は適応力が高すぎるのぉ……」

「そうか?」

「追放されてイカダの上で生活とか、普通だったらパニックになるか、頭がおかしくなっても仕方がないのじゃ。それをお主はこうも平然と……」

「そりゃ最初はどうしようと思ったけど、スキル【リサイクル】があれば以外とどうにかいけちゃったからな。それに話し相手のアスピができたし。お前には感謝だ」

「ふ、ふん! いつか話し相手から、神として崇めさせてやるわい」

「うへぇ~……♂亀のツンデレは気持ち悪い……」

「なんじゃと!? きさまぁ!」


 アスピが亀頭でゴスゴスと頭突きをしてくるので、ノアクルはハンモックへと退避した。

 ここならばアスピの背丈では登ってこられない。


「いや~……本当に悠々自適だなぁ……」


 ノアクルは、鉢植えからオレンジらしき果物をもぎ取り、それを皮ごと囓った。

 大地の加護のおかげか甘みが強くてデザートとして最適だ。


「余裕ができたし、これからのことでも考えるかぁ~……」

「そうじゃのぉ。お主はこれからどうしたいんじゃ?」


 イカダで自給自足できそうな環境は整えた。

 流れてくるゴミを有効利用できるし、基本的にここで暮らしていくことになるだろう。

 そこでふと思い出した。


「そういえば、このイカダと海域を〝国〟として与えられたんだよな。それがたとえ詭弁でもさ」

「となれば、ここら一帯はお主の国かのぉ」

「バカバカしいけど、そういうことになるな。海上国家ノアクル……いや、海上国家ノアの最初の国民はアスピ、お前だな」

「亀なんじゃが」

「ただの亀ではない。ゴミ扱いされた亀だ。……よし、これからもゴミ扱いされた奴らを国民として受け入れてやるか! まだ使えるゴミたちよ、我が海上国家ノアに集まれ!」

「この王、とんでもないことを言っておるのぉ……。けど、それも面白いかもしれん。長生きはしてみるもんじゃ」


 今、ノアクルによる海上国家ノアが始まったのであった。

 ――というところで、ノアクルは気が付いた。

 大きな影がイカダを横切ったのだ。

 海鳥というレベルではない。


「……え?」


 人間サイズの鳥のようなものがイカダに降り立ち、眼を爛々と輝かせていた。

 それは人間よりはるかに恐ろしい力を持つといわれるハーピーであった。

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