大地亀との邂逅
「ん……ここは……まだ俺は生きてるな……」
嵐が来たとき、とっさにスキル【リサイクル】で縄を再作成して、イカダと結んでいたのが功を奏したのかもしれない。
意識を取り戻したノアクルはまだイカダの上にいた。
しかも、目線の先には地面がある。
「おいおいおい! ラッキーなことに無人島に上陸したか!? 助かっ……なんだこれは……」
地面は確かにあった。
しかし、それは数歩も進んでしまえば終わってしまう程度の小ささだった。
海にニョキッと生えた小さなテーブルに近い。
中心に岩が一個あるだけだ。
「さすがにこれじゃどうにもならないな……」
そう落胆したのだが、岩だと思った何かが人工物であることに気が付いた。
よく観察すると、それは石造りの古いほこらだ。
何か役立つ物でもないかと考え、多少は罰当たりかと思いながらも中を開けてみた。
「何か緑色のものが……いや、これは……嘘だろ。閉じていた古いほこらの中で生きているはずが……」
あまりにゆっくりすぎて最初は気付かなかったが、それは緑色の生き物だった。
手の平に載るサイズ。
硬質な甲羅を背負い、丸っこい頭と手足をしていて、ノソノソと歩いている。
「か、亀……? でも、亀は万年っていうしな……不思議ではないか……?」
「失敬な。ワシは万年以上生きておるぞい」
「そうか~、すごい長生きなんだな~……って、今誰が喋った?」
ノアクルはキョロキョロと周囲を見回すも、ここにあるのは小さなイカダと数歩で移動できてしまう小島だけだ。
喋れる存在はノアクル以外はいない。
「ヤバい……ついに幻聴が聞こえてきたか……」
「ワシが喋っておるのじゃが?」
再び聞こえてきた幻聴――ではなく、明らかな肉声は下の方からだった。
その方向にいるのは亀だ。
この世界は獣人や魔物などはいるが、普通の亀が喋ったりはしない。
「魔術で変身してるとか……?」
「正真正銘、亀じゃ」
「……世界って広いな」
クラクラしそうな展開に頭を押さえながら、現状把握に努める。
喋る亀と遭遇してしまったらどうするか?
とりあえず――
「俺の名前はノアクル・ズィーガ・アルケイン。そちらは?」
自己紹介から始めることにした。
「ワシはアスピ・ド・ケロンじゃ」
「オーケーオーケー。二人とも若干名前が長いから、お互いフレンドリーにノアクル、アスピで呼び合おう」
「適応力高いな、お主」
手の平サイズの亀――アスピを観察すると、意外と表情が豊かだ。
(喋れる知性があるのだから、表情があるのも当然か……?)
「アスピはなんでこんなところに?」
「……大昔、ワシは大地の神として崇められておったが、徐々に信仰が薄らいで力を失っていってのぉ……。そのせいで力を失った島は沈み、住人たちにほこらを放置されてこのざまじゃ。今の時代、もうワシは必要のない〝ゴミ〟なのかのぉ……」
「〝ゴミ〟だって!? 素晴らしいな!!」
「ちょっと待つのじゃ、今の話を聞いておったか!? そんな声高らかに『ゴミ素晴らしい』の流れじゃないじゃろ!?」
眼を輝かせるノアクルに対して、アスピは奇異の目を向けてきている。
慣れているのでスルーした。
「じゃあ、今度は俺の話だな。実は――」
事情を聞いたアスピは小さな首でうんうんと頷いていた。
「なるほどぉのぅ……。たしかにお前さんは頭がおかしいところもあるが、さすがに処刑はやりすぎだのう」
「そうだろう、そうだろう! ということで、ゴミ同士で手を組もうじゃないか!」
「ワシ、ゴミなの!? 神と崇められたこともあるのに!?」
「ゴミというのは俺にとっての褒め言葉だ!」
アスピは心底不服そうな表情をしていたが、ノアクル相手に何を言っても無駄そうなのを察して諦めた表情をした。
「仕方がないのぅ……久方ぶりに人の子の力になってやるわい……」
「個性的な亀が仲間になった! やったぜ!」
「では、人化を……」
「おいばかやめろ、初手で人化はやめておけ!」
ノアクルが止めるのも聞かず、アスピは光り輝き、人の形となった。
長い緑髪のスラッとした長身イケメンだ。
「人とコミュニケーションを取るには、この姿が都合いいじゃろ?」
喋りはお爺ちゃん口調なのでかなりギャップがあるのだが、イケメンで声が若返っているのでそこまで違和感はない。
「俺は都合よくない! 野郎と二人でコンビなんてまっぴらごめんだぞ!? ここだとくっそ狭いし、亀に戻れ亀に!」
「普通は有り難がって、手を合わせて拝むものじゃが……仕方がないのぉ……」
アスピは一瞬にして亀に戻った。
「人化するなら、せめてここぞという美味しいときにでもしておけ! ああ、もったいない……!!」
「お主はなんの心配をしておるのじゃ……。他にもっと心配すべきことがあるじゃろぉ……?」
「心配? 発明品の箒ヘルメットを置いてきてしまったことが心配だ……」
「……もしかしてお主、記憶力悪すぎか? 真水をどうするかということじゃ」
ノアクルは忘れていたが、雨が降って一時の乾きはしのげたが、根本の問題は解決していない。
このままだと喉が渇いて死ぬことになる。
「そんなこともあったな……どうするか……」
「お主のスキル【リサイクル】を海水に使うのはどうじゃ?」
「おいおい、冗談を言うなよ。俺のスキルはゴミ相手限定だぜ?」
「……そうかのぉ? とりあえず、なんでもいいから試すのじゃ」
「はっ、まったく。俺のスキルをぜんっぜん理解していない凡亀はこれだから……あれ? できた」
ノアクルは海水を手の平ですくって、そこにスキル【リサイクル】を使ったのだが、見事に真水が取れた。
舌でペロリと舐めてもしょっぱくない。
ゴクゴクと飲み干してから、冷静に考える。
「……なんでゴミ相手じゃないのに使えたんだ?」
「別に対象がゴミじゃなくても使えるというだけなのじゃ……?」
「い、いや! この俺のスキルだぞ!? ゴミ以外に使えるというのはおかしい……。はっ、そうだ! 海水というのは、天から〝捨てられた雨〟が溜まったもの……つまりゴミと解釈できる! そういうことだろう! 俺のスキル【リサイクル】よ!」
「……そもそも最初の縄もゴミではないのじゃ……。こやつ、性格的に追放されて当然かもしれんのぉ」
アスピが何か言っているがスルーした。
「これで水問題は解決したな! さすがにこの島に留まるわけにもいかないから、またイカダで漂流か……。いくぞ、アスピ」
「ああ、待つのじゃ。この島の土をイカダに積むのじゃ」
「土を?」
「ほこらに祭られていたフルーツなどの種子がある。これを植えて食べるがよい。人間は船の上だと色々食べないとすぐ死ぬらしいからのぉ」
「おいおい、船の上で一から栽培とか気が長いな……」
「ホッホッホ。言われた通りにしてみるのじゃ。嫌なら人化してやるぞい」
「野郎と二人きりでイカダ生活だけはごめんだ!」
さっそく、ノアクルは鉢植えをいくつか作った。
それに島の土を詰めて、種を植え、イカダに載せる。
「これでいいのか?」
「オーケーじゃ。仕上げはワシに任せろぃ――大地の加護を与える!」
イカダが一瞬だけ輝き、それが収まったと思ったら鉢植えから植物の芽が出ていた。
「は?」
「ワシの大地の加護の力じゃ。そのイカダを大地として〝定義〟した。特に鉢植えのところに力を集めたので、成長も早くなっておる」
「亀の力ってすげー……」
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