禁忌スキル【リサイクル】の目覚め

 自由になった手で植物の繊維を持って観察する。

 たぶん麻だろう。

 素材と呼べるくらいに状態が良い。


「スキル【リサイクル】って……物を素材に戻すという効果なのか……? いや、さすがにありえないだろう……」


 勘違いかもしれないと、今度は縛られている足の方にも使用してみる。

 すると、同じように麻素材にリサイクルされた。

 ノアクルは自由になった手足をさすりながら、歓喜の表情を見せる。


「す、すごいぞこれは……! すごいぞ! ……でも、ここで・・・どう使えばいいんだ?」


 これが陸地なら素直に喜べるかもしれないが、ここは海の上のイカダである。

 あと使えるのは、領地であるイカダくらいなのだが……イカダを木材にリサイクルしてしまえば溺れて死亡コースだろう。


「そんなマヌケな理由で溺れ死ぬのだけは勘弁だ。……ん?」


 コツンと何かがイカダに当たる音がした。

 海に浮かぶ何かが海流に乗って流れてきたようだ。


「そ、そうか! この危険海域はゴミが非常に多いんだった!」


 ここは年がら年中ゴミが流れている海域である。

 原因はアルケイン王国がゴミを垂れ流しにしたり、古代文明のゴミが放置されていたりするなどが原因だ。

 また特殊な海流ならしく、浮力を無視して不思議なものが浮いている場合もある。

 今回は難破した船体の一部だろうか、それが何枚か手に入った。

 すぐにそれをリサイクルしてみる。


「おぉ~……木材が手に入った!」


 素材としてよく見かける小さな木の板だ。

 少し感動してしまったのだが、これをどう使うかがいまいち思いつかない。

 せめて、イカダに使えるくらい大きい形を選べたら、と思った瞬間――


【実績:初めて木材(小)を作成。スキルレベルがアップしました。バリエーションが追加されます】


「頭の中に声が……ついに幻聴が。いや、スキルの声というのがあると聞いたことがあるな。それなのか……? きちんとスキルとして認識したから聞こえてきたのか? それより内容だ……バリエーションが増えたということなら――」


 半信半疑で、もう一個あった船体の一部をリサイクルしてみる。

 今度はもう少し大きな木板をイメージしてみた――すると。


【実績:初めて木材(中)を作成】


「今度はもうちょっと大きい木材が作れた! どういう原理なんだ……。だけど、これは使えるな」


 今度は木材からオールを作ってみることにした。


【実績:初めてオール(小)を作成】


「よし、できた! さっそく、使わせてもら――いや、待て。小さいな」


 リサイクルで作成できたオールは普通のサイズよりも小さく、もはや子ども用サイズだ。

 ノアクルは首を傾げ、思考を巡らせる。


「イメージしたオールはもっと大きかったが、使った素材は小さかった……もしくはスキルの熟練度的なものが足りないということなのか? それなら……」


 ノアクルは流れてくるゴミから、木材を何個か作ってみた。

 すると再び頭の中に声が響く。


【スキルレベルがアップしました。バリエーションが追加されます】


「これで考えが正しければ……」


 オール(小)と作り溜めた木材を一緒にリサイクルをしてみた。

 するとオール(小)と一定量の木材が合体して普通サイズのオールとなったのだ。

 多少、木材は余ったまま残っている。


【実績:初めてのオール(中)を作成】


「よし、スキル【リサイクル】のことが少しずつわかってきたぞ。ゴミを素材にして、その素材量分だけの何かを作れるということか」


 それに加えて、ノアクルはオールの詳細な図面などは知らず、大まかなイメージで作っているのに、職人が作ったような見事なオールになっている。

 もしかしたら、何かスキル補正がかかるのかもしれない。

 その推測が正しければ、もはやただのスキルではなく神の御業に近い。

 無駄スキルというより、資源大国アルケインの根幹を揺るがす禁忌スキルだ。

 そんな最高潮の気分に達しようとしていたのだが、ノアクルはふと気が付いてしまった。


「……でも、真水もないし、どっちみち生き延びられないよなぁ」


 冷静に考えて、イカダの上で生き延び続けるというのは難しい。


「せめて雨でも降れば……」


 そう呟くと、天の助けか本当にポツポツと雨が降り始めた。


「おいおい、ちょっと俺に対して都合良すぎるな! 神に愛されてしまったか!」


 あまりの運の良さに笑いが出そうだったが、同時にゴロゴロという天からの音に気が付いた。

 周囲は薄暗くなり、雷鳴が轟いた。


「……雨、というより、嵐かな? あ、死んだわ……俺……。ノアクル先生の次回作にご期待ください」

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