第40話 シャボン・バスタイム

ちゃぷん。


膝を抱え直したら、湯船に貼ってあるオレンジ色のお湯が波を起こした。


冴梨を後ろ抱きにして湯船に浸かる亮誠が、波打ったお湯の中に腕を沈めて、冴梨の膨れた腹部を撫でた。


「だいぶでかくなったな」


「ねー、この間まで、いるかどうか分かんなかったのに」


風船のようにパンパンになった腹を撫でて、肩越しに亮誠がむき出しの冴梨の肩にキスを落とした。


「悪阻、納まってから一気に食欲増えたから、こんだけ膨れたんじゃねーの?」


「あ、なにそれ、太ったって言いたいの?ちゃんと胸にも肉がついてますー」


フンっとお湯越しに胸を張ってみせた冴梨。


亮誠が笑って腹を包んでいた掌を上へ上へと滑らせる。


「あ、調子に乗って触ったら駄目だからね!」


「まだそんな胸張ってないだろ?」


乳腺が張り始めると痛むと聞いたことがあったが、今のところ冴梨の胸は妊娠特有の張りもそれほど無い。


ついこの間まで掌で納まる程度の大きさだった胸が、あっという間に膨らんで、今では亮誠の掌を押し返す程だ。


心地よい感触を愉しむ亮誠の指先が冴梨の胸を好き勝手に弄ぶ。


「っ、だからヤダって言ったのに!」


「何が」


亮誠の左手が胸から離れたとホッとした途端、鎖骨を撫でて、顎を捕えられた。


冴梨の顔を引き寄せて、唇を重ねる。


途端滑り込んで来た舌に、冴梨が驚いて唇を閉じようとしたが、亮誠の指がそれをさせない。


「んゃ・・・ぁ・・・チュ・・・ん」


甘いリップ音と一緒に、冴梨の膝が湯船に沈む。


抱えていた腕を解いて、後ろから伸びて来た亮誠の腕に縋った。


「も・・・ゃっ・・・ん・・・りょう・・逆上せ・・・る」


「ん・・・加減してる」


啄ばむ様なキスと、深いキス。


冴梨が逆上せない様に気を付けながら、的確に冴梨の弱いところをついてくる。


冴梨の身体をなぞる掌は、腹部を過ぎて、丸みを帯びた腰を撫でた後で太腿に向かう。


ひとりで入浴して気分が悪くなると心配なので、と言い訳をして冴梨とバスルームまで引っ張って来た。


腹部が目立ち始めると、髪や身体を洗う事が難しくなると一鷹に訊いていたので、身体も髪を洗ってやるつもりだったのに。


冴梨は、自分で出来る!と言って訊かなかった。


そう思ってみれば、結婚して一緒に入浴しても、身体を洗いあった事が無い。


今更何を困る事がある、とは思うが口にはしない。


わざわざ冴梨が逆上せない様に、ぬるめの設定でお湯を張っているのだ。


その為のバスタイムなのだから、早々に逆上せられては困る。


バスルームの温度と亮誠によって上気させられた頬を、亮誠の首筋に押し当てて冴梨が呟く。


「一人で入るって言ったでしょおー」


「今更照れるとこか?」


「何か、お腹膨らんで来たし、見られるの嫌なの」


自分ですら、自分の身体の変化に毎日驚きっぱなしなのだ。


決して以前の自分も体系が良かったとは言い難いが、それでも、もう少し可愛かった気がする。


肉がつくのは妊娠中なので仕方ない事だけれど、比例して不要な所にまで贅肉が増えて行っている気がする。


「俺の子が入ってるのに?」


「それとこれとは別でしょ?」


「俺は、毎日冴梨の変化を見てたいよ。


どんな風にお腹の子が成長していくのか興味あるし。


折角人生初の経験してんだから、共有しとかねーと勿体無いだろ」


「そーやって毎日お風呂連行して色々するくせに!」


「それはーまあ、なりゆきで?」


「何よー成り行きって・・・っん」


こうも抱き心地の良い身体が目の前にあって、ましてそれが自分だけのものなのだ。


手を伸ばさない理由があるだろうか?


いや、無い。


冴梨が仕切りに気にする体系も、亮誠にとっては抱き心地が良くなっただけの事。


胸も腕も太腿も、触り心地の良い弾力を持って亮誠の手を待ち望んでいるようにしか見えない。


詰まる所、冴梨に触れる理由を作る為に、こうして毎日のバスタイムはあるわけだ。


これ以上非難の声が上がる前に、冴梨の唇を塞いでしまう。


抱きかかえたままで内腿を撫でれば冴梨の手が慌てたように、亮誠の手を叩いた。


「だめ・・・」


「分かってる・・・しない」


安心させるように言って、唇を離す。


いつもより更にぬるめのお湯にして正解だったと今更思う。


このままでは自分が流されてしまいそうで怖い。


それ位冴梨の身体は気持ちがいい。


額に浮かべた汗を指で拭ってやってから、こめかみにキスを落とす。


「髪洗ってやるよ」


「ん・・・」


返事をするものの、冴梨が一向に身体を起こそうとしない。


「気分悪いか?」


心配になって問いかけたら、冴梨が小さく首を横に振った。


「もうちょっとだけこうしてて」


甘えるように呟いて、亮誠の胸に身体を預けた。

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