第19話 only : 僕には出来ること




 『ラインク君はどうやってそれを‥‥!』


 「ミナト君、何で分かったんだ‥‥!」



 お互いに分かり難い事が起こり、疑問を抱くままに辺りは静けさに取り込まれていく。

 


 「素晴らしいですよこれは!! 他の人の

 紋章もてみて下さいよ、ミナトさん!」


 「これは凄いね。もしミナト君のその力が

 本当なら、大したものだよ。確か‥‥ミナト

 君も有紋者だったよね」


 「あぁ確かに、ちょっと見せてやれよ。」


 『有紋‥‥? あぁ、これの事ですね‥‥!』



 僕は袖を捲り、右腕に記されたあのreadの文字を見せた。

 有紋者というのは、この文字がある人たちの事を言うのだろう。



 「おや? ミナトさんも有紋者でしたか‥‥

 でしたら、どんな効能があるかご存知で?」


 『こ、これですか? いや、別に僕は手品

 なんて出来ないですよ‥‥』


 「だからお前いつまで‥‥。あ、そうそう、

 コイツずっと変なことばっか言っててさ、

 俺らの使う魔法を手品だとか、自分はこの

 世界の人間じゃないとかさぁ‥‥」


 「え、ミナトさん、そんな事言ってたんです

 か?」


 「ミナト君は‥‥うん‥‥そうか」


 「どういうこと笑」


 『だっ‥‥! だから本当ですって!!

 信じてないでしょ!!』


 「じゃあさ、お前の紋章魔法はどんなやつ

 なんだよ。」


 『え、あぁ‥‥僕のこの紋章なら、読むみたい

 な意味があるんですけどね‥‥』


 「魔法が発現したことはありますか?」


 『だから僕、手品師じゃないです‥‥。でも

 この世界に来たのはつい数日前です‥‥。』


 

 この世界に来てからの日々は、分からない事だらけのまま過ぎ去っていっている。

 わざわざこんな見知らぬ中学生を保護してくれているこの人たちの為にも、早く踏ん切りを付けなきゃいけないのに‥‥。



 「じゃあ、ミナトさんの魔法はまだどのよ

 うなものなのか、分かっていないのですね

 あ、でも‥‥‥‥他人の紋章を見て紋章魔法の

 効能が分かるなら、自覚の無いだけでミナ

 トさんの紋章魔法の力かも知れませんし‥‥」


 『‥‥‥‥?』



 急にペラペラと早口で喋り出すなぁ‥‥。



 「てか、ツルナ‥‥もういいか? 早く帰ん

 ないと‥‥」


 「いえ! もう少しだけ‥‥」



  ゴォ~ン‥‥ゴォ~ン



 『!?』


 「あ、やばw じゃあなリグフトたち!」

 

 「僕も自室に帰るとするよ‥‥ふぉ‥‥眠っ」


 

 ラインク君は早々と部屋のドアを閉めてしまった。サクリ君もあくびをしながら歩きだしている。

 なんだ? みんなこの鐘の音が鳴った途端に解散みたいな雰囲気になって‥‥。



 「ぬぅ‥‥気になりますが、また後日です!

 ミナトさん、しばらくお付き合い下さい!」


 『うえっ、ちょ!?』


 「ほら、行くぞミナト。今日は一応、俺ん

 部屋しかないから」


 『はっ、ハイ! あ、もしかしてこれ‥‥!』



 消灯か! どうりでリグフト君は焦っていた訳だ。



 「ミナトさんは、もしかしたら記憶喪失か

 も知れませんねぇ~笑」


 「ハハ笑、珍しい能力だし、本当にこの世

 界の人じゃないかもしれないね笑」


 『‥‥‥‥‥‥‥‥?』



 自室に戻っていくツルナ君とサクリ君の会話は聞きとれなかったが、変な事を言った僕を怪しんでいるようには感じなかった。



 「おい、ミナト行くぞー」


 『はっ‥‥ハイッ!』



 僕はまた更に増えた疑問たちと、単語帳を抱えつつ、彼の跡を追っていっていた。


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