第13話 shower:汗と経緯を洗いざらい




 『ふうぅぅぅぅぅ~う‥‥‥‥!』



 急激な体温の上昇と疲れの抜けていく感覚に懐かしさを覚えながらも、安楽に浸る。

 いつも当たり前だと思っていた事に感謝することが、人間には本当にあったみたいだ。



 『ぬぁ~!! 暖かァぁ~!!』



 そう言えば、この辺に来てから一度も風呂に入ってなかったし、それも含めてめちゃ気持ちイイ。

 しかし、僕が何度か夢で見たあの人はいったい誰だろう。あの人は俺の運命がなんたらとか言ってたけど‥‥マジでどういう事‥‥?



 「ミナト君、湯加減はどうだい?」


 『あ、えと‥‥サク‥‥』


 「サクリフィセだよ」


 『あうん、サクリ君か‥‥控えめに言って最

 高だよ、ほんとに』


 「ハハハっ、それは良かった。にしても

 さっさからリグフト君が困っているようだ

 ねぇ、助けてあげたらどうだい?」


 『え‥‥あ、ほんとだ‥‥』


 

 リグフト君は湯船の隅で腕を組んで考え事をしているように見える。眉間にシワが寄って口を曲げていた。

 心配だから僕は泳ぐ様に彼に近づいた。あんまりにも考え込んでいるし、まだ会って少しの人に自分から話しかけるのは勇気が要る。



 『えっ‥‥と、なんか悩んでる?』


 「あ‥‥って、お前の事だよお前ぇ‥‥!」


 

 なんかすごい嫌な顔されたよ。



 『え、ごめん‥‥何かした‥‥?』


 「いや、そういうのじゃなくて‥‥お前をど

 う帰してやればいいか考えてんだ」


 『なっ‥‥! ちょっと待って下さい‥‥僕、

 ここで帰れと言われても‥‥!』


 「おぃ‥‥何でだよ! 宛がないとか言ってた

 けど‥‥」


 「まぁまぁ‥‥落ち着きたまえよリグフト君」


 「お前が変なこと言い出すからだろッ!!」



 ゆっくりと泳ぐ様にしてサクリ‥‥(また名前忘れた)君が寄って来る。



 「ハハ、良いじゃないか。気に入ってくれて

 いると思うけど」


 「そういう問題じゃねぇよぉ‥‥」



 リグフト君は力無く頭を垂れた。

 うぅ‥‥たまたま巡り会った人たちに助けて貰ってラッキーどころか感謝だけど‥‥。



 「いやー、ほんとにどーしよォー‥‥」


 「僕はもう上がるよ」


 「逃げんなッ!!」



 こうも悩まれると罪悪感が‥‥ね。



 「うわっ!? あいつ本当に行きやがった

 ぞ! ちょ、ミナト? お前まじでどっか

 ら来たんだ!」


 『そっ‥‥そう言われても気付いたら‥‥』


 「じゃなくて! どこ出身!」


 『日本だよぉ‥‥』


 「にほ‥‥何て? 知らんけど‥‥どこの国

 だ?」


 『日本は国ですよ‥‥!』


 「ハァ? 地図にねぇ国名が伝わるか!

 やっぱ変だな、お前ぇ‥‥」


 

 じぃーっとこちらを凝視される。

 僕が知りたいよ、もう! 急に生まれ変わってるとか言われても信じれないし、人に言えないぞ‥‥。



 『ほ、ほんとですよ‥‥!?』


 「あぁ、分からん! 上がったら事情聴取

 だかんな!!」


 『うそォ!? ちょっと待ってー!!』



 リグフト君は湯船を上がって、シャワーを浴び始めた。



 「ふふ‥‥賑やかだ、更衣室からでも聞こえる

 くらいだよ」



 

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