第11話 growl:幸せを運ぶ音





 「それではみんな、ミナト君をどうすべき

 か‥‥意見を聞かせて欲しい‥‥!」


 「家に帰してあげたら‥‥?」

 「だから~もうしばらく住めばいいじゃんか

 よ笑」

 「なんか新鮮だな、転校生が来たみたいだ

 わ。」

 「ねーねー! 何が好きー?」

 「やべ! 俺ちょっと魔力値の再テスト行っ

 てくるわ!」

 「俺も! 課題の再提出‥‥だる‥‥!」


 『およ‥‥およよよよぉ‥‥』


 

 あぁ‥‥きっと今の僕の目の中は、渦巻いて星もまたたいているのだろう‥‥。

 それぼどまでに、脳に負担がかかっているのがよく分かる。



 「大丈夫なの? あの子顔色悪くない?」

 「てか、もう6時よね‥‥ヤバいんじゃない

 の?」

 「んん~難しいですね‥‥。」

 「おーい、リグフト! お前が決めろ!」


 「え! お前ら‥‥そうだ、お前何とか言って

 やれ!」


 『はっ、ハイぃ!』

 


 急に振って来たリグフト君含め、見知らぬ大勢の誰かさんたちが一斉にこちらを見つめてくる。

 こうなったのは、ほんの少し前のお話‥‥。




……………………




 「うーん‥‥ホントにどうしよ‥‥。」



 二人の男子とはじめましての自己紹介を終えた所で、リグフト君は頭を抱えていた。

 はい、僕のせいですね、すみません‥‥。

 だが、見ているだけではダメだろう。自分のことで相手を悩ませているのだ。積極的に行動せねば!!

 そんな風に思った僕は、勇気を出して聞いてみる。



 『す、スマホ持ってません? 親に連絡とか

 なら出来ますんで‥‥。』



 何とか学生証が制服のポケットに入れっぱだったので、両親の電話番号は分かる。

 さぁ‥‥どうだ?



 「え? すま‥‥何だ?」


 『え? あの、スマホです‥‥。』


 「何それ? ちょっと本当に落ち着いた方が

 良いかもな‥‥。」



 え‥‥? スマホが伝わらない?

 しかも、何か呆れられたんだけど!!



 「困っているようだね、リグフト君。

 そんな君に名案があるよ。」


 「え? 何?」



 おもむろにサクリ‥‥何とか君、あの若干ナルシっぽい子が言った。

 僕も固唾を飲んで耳を傾ける。



 「僕が‥‥‥‥」


 「お、おう‥‥」


 「考えてもどうしようも無いから、みんなを

 呼んでくるよ。」


 「あかんです! 今は、今はあかんです!」



 これにはリグフト君も突っ込みが抑えられなかったようだ。



 「ちょうどみんな帰ってくる頃だろう。

 いいタイミングじゃないか。」


 「お、来た来た! おーい、お疲れー!」


 「エェ~~!!」



 噂をすれば何とやら、ラインク君が下駄箱の先の玄関を開いて誰かに向かって話す声が響く。

 同時に‥‥リグフト君の悲鳴もセットで。



 「あぁ、お疲れ。どしたのラインク?」


 「いや、なんかミナト君いるだろ? あの子

 が帰れないとか何とか言ってるらしくて、

 んでリグフトが困ってんの。」


 「え? まだ帰してなかったのか。

 まぁいいや、ちょっと挨拶くらいしてく

 か。」


 「お、来てくれたね。もう何人か来そうか

 い?」


 「あぁ、もうみんな帰ってくるよ。

 あ、ほらな。」


 「ただいま~」

 「あー疲れたわ」

 「俺、課題再提出だ‥‥めんど」

 「マジ? 一緒に行こうぜ、俺も再テスト受

 けろって。」


 「あわ、あわわわわ‥‥!」



 リグフト君の顔が、目に見えるようにだんだんと色褪せていく‥‥




……………………




 『実は行く当てが無くて‥‥もうどうしよう

 も‥‥。』



 こうして今に至る訳だか、自分の出した情けない言葉と声に僕の精神はギリギリだった。



 「そうなのかい‥‥あ! 閃いた!」



 すると僕の返答を聞いたサクリ‥‥何とか君が手をポンと叩く。



 「これはせっかくのお客さんと言うことでも

 てなすのはどうだい?

  みんな、ミナト君はこれからお客さんとい

 うことにしよう、どうだろうか?」


 「『うえぇっ!?』」



 思わず、リグフト君と声が重なる。

 え? どういうこと?



 「おぉ笑 いいなそれ!! そうしよそうし

 よ!」

 「そうね‥‥よく考えたら森で倒れてた訳なん

 だし‥‥」

 「なんか楽しそうだな、俺も賛成」

 「うふふ、お腹空いてるでしょう? 食堂に

 行きましょ?」

 「じゃー私、お布団用意しておくね!」

 「あんた1人で出来んの? 着いてくわ‥‥」


 「後で風呂行こうぜ、ミナト君! 全部

 案内してやるよ!」


 『えっ‥‥あ、ありがとう!!』


 

 ラインク君はそう言うと、僕の肩を押してくれた。

 何これ‥‥? どうなってるんだ!?


 

 「お、おいおい‥‥。」



 突然の提案と、それに対するみんなの賛同にラインク君も拍子抜けだ。



 「悪いことじゃないだろう?

 ちなみに僕はミナト君用の部屋の用意でもし

 ようか‥‥。」


 「はは‥‥まぁ、そうだよな。俺が言えるもん

 じゃねぇし‥‥」



 ラインク君もなんだか諦めに近い賛成の雰囲気が出て来ている。



 「よし! 俺も手伝うわ!」


 「うん、それがいいさ。」


 「おいおい、寮長俺だろ? 管理がてら俺も

 手伝う」



 なんかもう1人の男子も混ざって。



 「それじゃあまずは‥‥」



 ラインク君がこちらを向いた時だった。


   

   ぐううぅぅう~~う…



 『あっ‥‥ご、ごめ‥‥』



 みんなの対応への安心からだろうか、突然に僕のお腹はしゃしゃり出た。

 恥ず‥‥そんなにお腹空いてたかな?



 「飯‥‥だな笑 よし、みんなで行こーぜ!」

 

 「そうしよう! 行こうか!」

 「あー俺も、お腹空いたわ笑」



 サクリ君も、リグフト君も



 「ふふっ! ミナト君、食いしん坊だね」

 「なんか私もおなか空いた~!」

 「布団用意すんじゃなかったの? もう」

 「おや! もう二人帰ってきましたねぇ!」


 「なになに? 飯か!」

 「俺も俺もーー!」


 『あ、ハハハ‥‥!』



 気のせいじゃないだろう

 彷徨い続けて初めてこの瞬間、僕の口角は上に少しずつ、上がっていっていた。

 

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