第9話 perceive:認めざるを得ぬ事態




 さぁて‥‥とりあえず、時間を知りたいな。

 どこかに時計は‥‥。



 『おっ、ええと‥‥12時半過ぎか。』


 

 さっと辺りを見回したところ、なんとこの部屋には壁掛けの時計があった。

 その針が示したのは12時半過ぎ。僕はそんなに寝ていたのか!

 まぁ‥‥倒れるまで歩き疲れてた訳だからね。

 今も若干足の筋肉が張ってる気がする‥‥!


 

 『はぁ‥‥どうするか‥‥。』



 きっと、悪い夢でも見ているんだ。

 そうでなきゃ、学校あんのにこんな昼まで寝てない、腕にヘンな文字も浮かび上がらない。

 英単語帳片手に知らない土地を彷徨ったりもしないし、歩き疲れてぶっ倒れたりもしない。

 

 だからさ、正直、実感無いんだ。

 自分が死んでるとか、真っ白な空間の中で誰かの声がするとか。

 そんなの‥‥受け入れられなくて当たり前に決まってる。

 そうなれば必然に、何の目的も無いままに、彷徨い続けるしかないんだよな‥‥。


 だから、僕はまた歩いた。

 昨日の男の子からの地図を頼りに。





ーーーーーーーー





 「はぁーあ! まじ眠かったわ‥‥。」

 

 『あぁ、ホント終わってるわ‥‥。6限に数Ⅰ

 は流石にアウトだろ。』


 「ホントそれなぁ‥‥。あ、てかさ、お前大丈

 夫なの?」


 『何が?』


 「あの‥‥誰だっけ、お前勝手に拾ってきただ

 ろ? あれ先生とかに言ったのかよ。」


 『うわっ‥‥そうだわ! はよ帰るわ!』

 

 「うおっ‥‥急だな‥‥じゃあなリグフトー。」


 『おう、バイバイー!』




ーーーーーーーー





 『えっと‥‥ここがエントランス的な‥‥?』



 行く当てのない僕は、昨日の男の子から貰った地図を頼りに辺りを歩き回っていた。

 ここはきっと建物の入り口なんだろう。下駄箱と玄関らしきものが見つかった。

 教室半部屋くらい広いこの部屋はきっとエントランスのようなものなんだろう。ベンチやら電気をいじくる機械らしいものまである。



 

  ‥‥‥‥‥‥‥チッ‥‥‥‥‥‥‥チッ‥‥‥‥‥

 



 時計の針の声が聞こえるほどに静かだが、そんなの当たり前。誰も居ませんから。

 でもおかしいなぁ、ここが学生寮だって昨日の男の子は言っていたはず。なのに人一人居やしないぞ?

 自分の置かれた状況に困惑し、焦りや嫌悪感みたいなものが込み上げる。そんな心労ゆえにすぐ傍のベンチに腰掛けようとした、その時だった。




   ガチャァ!



 「はぁ‥‥はぁ!」


 『うええっっ!!』

 

 「うげえっっ!! 居るやん!!」



 玄関の扉が勢いよく開き、誰かが入って来た。しかもよく見ると‥‥あ!



 『ええっ! も、もしかして‥‥昨日の‥‥?』


 「‥‥はぁ‥‥あーそう‥‥そう! 合ってる‥‥」



 肩を鳴らして、はぁはぁと息を切らしている。何か急ぎだった‥‥とか?

 この人の名前は‥‥えと‥‥リグ‥‥?



 『えと‥‥リグ‥‥フトさん‥‥でしたっけ!?』


 「あぁ、うん正解‥‥よく覚えてんな‥‥。

 それはそうと、君、どこにも行ってないよ

 な!?」


 『え、あぁ‥‥うん、そうだけど‥‥。』


 「そうか‥‥良かったわ。じゃあ君もう帰り

 な。ここに居ても問題になるだけだ。」

 

 『えぇ!? ちょ‥‥ちょっと、そんなぁ!

 僕、帰る当てもないのに‥‥!!』


 「はぁ‥‥!? どういうことだ‥‥!?」


 『だ、だから僕! こんな所初めて来たん

 だ! なんだよ学生寮って! 僕はついこの

 間まで下校中だっただけなのに‥‥!』


 「あぁ! もう訳分からん! これ見ろ!」



 そう言われて差し出されたのは見覚えのある地図だった。

 地理の教科書の2ページ目くらいにありそうなやたらと精密で綺麗な地図。しかし、どこに目を当てても知らない形、知らない国名。どういうことなんだ‥‥。

 そして、血の引く感覚と共に冗談交じりに頬をつねる‥‥。



 『夢じゃあない‥‥? これって‥‥。』


 「なんだ? 分かったか?」



 そして、今まで分かってきたことから、一つの答えが導き出される。



 『もしかして、生まれ‥‥変わって‥‥る?』


 「はぁ‥‥?」

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