第7話 obituary:不遇な運命を知る運命




 ……………………

 



 気が付けば、真っ白の中。

 なんにもないはずなのに、しっかりと地面を踏みしめるような感覚。

 この感覚、二度目だろうか‥‥。



 「どうですか? 新たに受ける生は。 

 お友達は出来ましたか? 何を見つけました

 か?」



 突然に耳に響いてくるような感覚。

 どこ‥‥? どこだ‥‥?

 慌てたようにキョロキョロとしていると‥‥ぼんやりと‥‥えてくる‥‥。



 「やはり、少し不遇ですね‥‥。」



 なんだろうか‥‥随分と整った顔立ち、揺らぎ一つないたたずまい、糸束のような流れる透き通った白い髪、見守るような穏やかな目付き。

 そして、聴覚だけでなく脳にじかに語りかけてくるような声音こわね‥‥。



 『あっ、あなたは‥‥!?』


 「ふふ、私‥‥ですか? そうですね‥‥

 あなたの運命さだめを見守る者‥‥とでも

 言いましょうか。」

 


 この声‥‥聞き覚えがある‥‥!

 この前、この空間と声の後、変なことに‥‥。



 『それってどういう‥‥?』


 「まぁ、分からないのも仕方ありません。

 あなたは今、自分がどんな状況に置かれて

 いるのかを知っていますか‥‥?」


 『っ‥‥!?』


 

 この人に問われ、急速に頭が回転し始める。

 そうか‥‥僕は‥‥。



 「その様子なら、もう分かっているのではな

 いですか?

 あなたは‥‥そう、ある一種の〝終わり〟を向

 かえている。」



 この人の言葉で、僕の心の内に存在する信じがたく、辛い考えは確定された。

 


 『それじゃ‥‥本当に僕、死んで‥‥‥‥?』


 「‥‥えぇ。」



 顔色一つ、変えず微笑むもんだから。

 あまりに残酷で、僕の頭は真っ白になっていく。



 『じゃあ‥‥じゃあ、あなたは何なんです 

 か! 死んだって‥‥一体僕が何したって言う

 んだ!』



 処理しきれない‥‥いや、したくない情報が頭を溺れさせ、声があらいでしまう。



 「まぁ‥‥落ち着いてください。

 先程も言ったように、あなたはあまりに不遇

 でした‥‥。」


 『え‥‥。』


 「だから、私が決めたのです。

 あなたには見合ったものを与えるべきと。」


 『‥‥‥?』


 

 何? 僕は死んでしまって‥‥それで?



 「焦るのも無理はないですね‥‥。」



 そう言われた途端、目の前の姿が形を失い始めた。そして、僕の意識も薄れていく。

 まるで霧のように‥‥。



 『ちょっと‥‥どういう‥‥!!』


 「これ以上は、あなた自身で知っていくので

 す。真新しさの中で、あなたに幸多からんこ

 とを‥‥。それでは‥‥。」


 『‥‥‥‥‥‥‥!』

 



……………………




  チュン‥‥ちゅチュン‥‥!


 

 『ん‥‥‥‥。』



 なんだろう。

 この、月曜日の朝みたいな感覚‥‥。



 『うわっ‥‥やばっ遅刻‥‥!』



 ガバッ‥‥と勢いよく毛布をはね除け、スマホで時間を確かめる‥‥‥‥が。

 


 『あれ‥‥ない?』



 そう、スマホもないし、もちろん自分の部屋ですらもない。

 そっか‥‥なんか昨日、人に会ったんだっけ?

 確か、僕は疲労のあまり倒れてしまって、その人に運ばれて、それから‥‥。



 『‥‥‥‥‥‥。』



 ぽりぽりと頭を搔きながら体を起こす。

 うん、ここは部屋だな。何かの。一目見て分かる。

 とりあえず、ぐるぐるとそこら辺をうろつく。

 本棚、照明、ベッド、机、椅子‥‥。

 それに‥‥‥



 『‥‥なんだろ?』



 机に文字の書かれた一枚の紙が置かれている。それに目を向けると‥‥




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ミナト? 君へ


 おはようございます。今朝はよく眠れた

 かしら? 朝ごはんを置いておきますか

 ら、良かったら食べてくださいね。

 あと、地図も置いときますから、困った

 ら見てください。


             メルーより


 追伸


 地図しっかり見とけ! 

    絶対、寮から出んな!


            リグフトより

 


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ほう‥‥‥‥。僕宛じゃん! まじか!

 とりあえず、書かれた通りに付属の地図を手に取る。

 開いて見てみると、そこには〝寮案内地図〟

と書かれていた。

 なになに‥‥? 部屋番号? 学校に繋がる道? 大浴場? 



 『はぁ‥‥‥‥? なんだよコレぇ‥‥。』



 訳が分からず、地図から目を離したその時。

 視界に入ってきたものがあった‥‥。



 『こ、これはッ‥‥!!』



 一枚の皿の上にバランスよく乗った食材。

 楕円形に膨らむパン‥‥? それにかたわらにはベーコンエッグのようなものまで。

 さらに、食べろ言わんばかりに皿のふちにはフォークとナイフがセットされ、皿の横には牛乳らしきもので満ちたコップもある。



 『ゴクリ‥‥!』



 そいや‥‥なにか口にしたのは、あの激不味果実が最後だったっけ‥‥。

 そう思った途端、懐かしの欲望が込み上げてくる。焦り過ぎて忘れかけていた、あの欲望。

 目の前のそれに向き合い、僕は手を合わせて言う。



 『いただきます‥‥!』 

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