第6話 light:迷える心に灯るもの


 


 『嘘‥‥だろ‥‥?』


 親切に話をしてくれた男の子から告げられたこと。

 僕はあまりの疲労に意識を失い、たまたま通りすがったこの子に助けられていたということだった。そして、どうやらここはこの子たちの学生寮らしい‥‥。

 そして僕の目の前に写るもの‥‥‥そう、地図だ‥‥しかも、見覚えのない。



 『ね、ねぇ! これどこの地図なんです

 か‥‥!?』


 「あ? いや、どこって‥‥世界地図?」


 『そんなはずない‥‥だって何ですか、この名

 前! トゥルーチとかダンセルとか‥‥それに

 アジアやヨーロッパなんか面影もないじゃな

 いか‥‥!』


 「え? あじあ? よーろっぱ? なんだそ

 りゃ。」


 『ちょ‥‥とぼけないでくださいよ! じ

 ゃあ、ここどこです‥‥』


 「だから! 何回も言ってるだろ。〝タイル

 ワインド〟だって。」


 『はぁ‥‥!? なにそれ‥‥。』



 確かに、見せてもらった地図にはタイルワインドという名前が記されている。

 じゃあ‥‥ここは本当に?


 

 『そ、そんな‥‥まさか‥‥。』



 そんな事があるはずがない。

 突然、気を失ったとはいえ‥‥。まるで別世界じゃないか。



 『待てよ‥‥そいや、僕‥‥死んでる‥‥?』


 「は? お前どうしたの‥‥?」


 

 軽蔑の目を向けられているが、そんなの気にしている場合ではない。

 懸命に過去の記憶を絞り出す。

 たしか僕、気を失ってから真っ白なところに居て‥‥それから‥‥‥‥!



 『あぁ! 単語帳!』


 

 今まで考えていたことが全てぶっ飛んでいく。まずい‥‥あれだけは!

 急いで制服のズボンポケットやら内ポケを漁くりだす。

 しかし、あんな辞書レベルの厚みを収納できるようなスペースは中学生の制服には存在しない。



 「ど、どうしたんだよ‥‥。」


 『ああぁ!? どーしよ! ねぇ、あの‥‥こ

 れくらいのさ! めちゃ分厚いやつ‥‥!』



 どちゃくそ焦りながら、両手の人差し指を使って四角形を空書きする。



 「ん、あぁ‥‥これ?」



 彼は羽織っていた上着の内ポケからそれを取り出した。



 『そう! それ! ください!』


 「えぇ‥‥あぁ、ハイ。いや、なんかすごい大

 切そうに握りしめてたからな。」


 『あぁ! ありがとうございます‥‥!』


 

 彼は僕の単語帳を渡してくれた。

 なんと、一緒に拾ってくれてたみたいだ。

 


 『本当にありがとうございます! なんてお

 礼すれば‥‥』


 「う、うんおけおけ、大丈夫。あの‥‥言いづ

 らいんだけど‥‥もう俺ら消灯時間でさ、もう

 部屋いかねぇと‥‥。う~ん‥‥分かった今日

 は俺の部屋で我慢してくれ!」


 『へ‥‥?』


 「あぁ~もう! 急げ!」


 『うええっ!? 待って!!』



 彼が急に走り出すもんだから、急いで追いかける。

 なんだろ‥‥訳もわからないまま、ここまで来てしまった。もちろん今も心に不安がこびりついて離れない。

 けど、人に会った。それだけで不思議と暖かいのは何故だろう‥‥。




ーーーーーーーー




 『んじゃ、おやすみ。』


 「は、ハイ‥‥、おやすみなさい‥‥。

 すいません‥‥ベッド借りちゃって。」


 『いや、全然大丈夫。まだ疲れてんだろ?

 よく寝とけよな。』


 「は、は~い‥‥。」



 そうとだけ言って、俺は頭から毛布をかぶった。

 そんなに寒い訳じゃないけど、さすがに気まずいからだ。



 「スウ‥‥‥スゥ‥‥‥‥‥‥。」



 うわっ、なんだよこいつ。もう寝たし。

 いくらぶっ倒れてたとはいえ早すぎないか?

 こういうのって普通、緊張して寝れんくない?

 まぁいいや‥‥放っとこ。

 

 でもなぁ、バレたらまずいよな‥‥。

 てか、なんでこいつは1人で森の中で倒れてたんだ? あの時どんなんだったっけ‥‥‥‥




ーーー

ーーーーーー

ーーーーーーーーー



 『あーぁ‥‥‥初めて人をおぶって歩いた

 わ‥‥バカきついわ‥‥これ。』


 「しっかり気絶してるもんな‥‥この人。

 もう少しで交代してやるよ。」


 『あぁ‥‥ありがと。そういやお前‥‥これ持っ

 といて‥‥たぶんこの人のやつだわ。』

 

 「おぉ、なんだコレ。この人の魔道書かな?

 おーい! アリアス!」


 「なになにー?」


 「ちょっとこれ持っといてくれ。今から交代

 するわ。リグフト、交代。」


 『え、まじ? すまん‥‥。』


 「あぁ‥‥お前もぶっ倒れそうだし、もう代わ

 るよ。」

 

 『助かる‥‥。』



 ラインクはこの人の持ち物らしき本をアリアスに持たせ、俺とおんぶを交代する。



 「なにこれ! 魔道書? なんかいっぱい紋

 章みたいなのが書いてあるよ! すごい!」


 『なんだって‥‥? あぁ‥‥ホントだ‥‥。』



 確かに、しれっと勝手に見てるけど、この人の本にはびっしりと紋章らしきものが記されていた。やっぱりこの人の魔道書なんだろうか?



 「うわ‥‥この人の服なんだ‥‥?何かの制服だ

 ろ‥‥運びづらっ!」


 『あぁ‥‥そうだなぁ‥‥おぶり辛いよな。

 まぁ後少しだし頑張ってくれ。さすがに見殺

 しはアウトだからな‥‥。』


 「うん! がんばってぇ! ファイトー!」


 「お、おう‥‥。」



 あと少しで寮か‥‥もう暗くなってるし、とりあえず寮でなんとかするしかない‥‥。

 大丈夫なんかな‥‥この人。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー



 んなことがあったっけ‥‥。

まぁいっか、こいつ運んで疲れたし俺も寝よ‥‥。

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