第3話 walk:歩き疲れて早数時間




 『はぁ‥はぁ‥‥うぁぁ‥‥。』


 たら~りと額から汗が流れ落ちる。

 もう歩き始めて何時間だろうか。


 『もームリだ! 足がもげるッ‥‥!』


 ドスンとその場に座り込む。

 片で息をし、空を見上げたがもう日は沈んで辺りは暗がりを帯びていた。幸いにも星空が明るく輝いているものだから視界は良好だ。


 『もう‥‥歩けないって‥‥。』


 学ランを着たままず~っと歩き回っていたんだ。両足仲良くパンパンであります。

 ちなみに‥‥さっきまで原っぱをしばらく歩き続けていたら、なんか森の入り口的に木々の生い茂る所まで来ていました。

 しかも‥‥近くには川も流れているじゃあないか。

 正直、これ以上歩いても何もある気がしないので‥‥

 

 『あぁぁ‥‥‥‥ちょっと休憩‥‥!』


 そのままの体勢で今度はうつむく。またしても額から汗が垂れてきた。

 心の底から溢れてくる孤独感、ズキズキと痛む両足、正直言ってもう限界だ。

 加えて十分な水分補給もしていないため、頭がクラクラする。部活で走り込みした時より死にそう‥‥。

 そのため今、僕ののどは感じたこともない程のかわきを覚えている。

 しかし‥‥僕とて人間だ、生きる為ならなんだって‥‥


 『もう‥‥飲むしかないよな。』

 

 僕はとっくに近く川の前にしゃがみ込んでいた。

 きっと軽い熱中症なんだ。ここはそこまで暑かった訳じゃないけど、誰だってしばらく水分をらないだけで熱中症になるから‥‥。

 みんなも気を付けようね。



  じゃぼっ‥‥



 そんな事を考えてる内に僕の手は川の水をすくい上げていた。

 冷たくて気持ちいい‥‥。そして喉の奥からよだれの沸き上がるこの感覚‥‥もう止められないッ‥‥!


 『ゴクッ‥んっ‥‥ぷはぁ‥!』


 全身の細胞の歓喜の声が聞こえる。

 喉の奥に染み渡る潤いと冷涼感。

 こんなうまい飲み物を飲んだ事はない。

 今まで飲んだ、どんなドリンクバーのジュースよりも、給食でまれに出てくるコーヒー牛乳よりも‥‥旨い。

 

 ジャバッ‥‥! 


 『ゴクッ‥‥ゴクッ‥!』


 一つすくっては飲み、また一つ掬っては飲んだ。

 欲のままにむさぼるように飲み続けて喉を潤した。


 『はぁ‥‥はぁ! うまかった‥‥!』


 体の興奮が収まったところで我に帰る。

 僕の体は水にむしゃぶり付くのに必死だったようだ。

 あぁ、僕は今、生きているよ‥‥。

 だがしかし、人間とは非常に欲深い生き物のようだ。今度は別の欲求が体を包み込む。



  ぐうぅぅぅうぅ‥‥‥‥



 聞いたことないよ、こんなお腹の音。

 けれど今の僕はこの欲望を抑えられる程の物を持ち合わせてはいない。


 『やーばい‥‥どうしましょ‥‥。』

 

 今にも泣き出しそうなお腹をさすっていると、近くの木にぶら下がっている物が見えた。

 それが視界に入った瞬間、僕の足は痛みも忘れて走り出す。

 まったく、こういうときの人間の欲の深さには驚いてしまう。


 『採れるか‥‥? ワンチャン手を伸ばせば

 いけるくないか?』


 なんと数本の木に、フルーツトマトみたいな実が何個かっていた。

 背伸びして手を伸ばしたらギリ届いた。

 勢いよく引っ張ってみる。

 

  プチッ‥‥

 

 『うぉし‥‥採れたぞ‥‥!』

 

 片手に収まる位の小さな果実。

 鼻を近づけて匂いを嗅いでみたけど、無臭だった。腐ってないよね‥‥?

 とにかく‥‥野生の果実だ。かなり綺麗な見た目だけど、しっかり洗わねば。

 今にも食らい付きそうなのを我慢して、川の水でこすり洗ってみる。


 『おぉ! これはイケるんじゃ‥‥!』


 これはこれは‥‥水もしたたるイイ果実!

 つやめくその姿に感謝して‥‥


 『いただきますっ‥‥!』


 一思いにかじりつく。

 次の瞬間、鼻を抜ける柑橘的なフルーティーな香り。

 ‥‥そして生タマネギみたいな辛みと食感‥‥。

 

 『うん? うっ‥‥オエェ‥‥!』


 全身の細胞の絶望の声が聞こえる。

 舌に居座る辛みと不快感。

 こんな不味い食べ物を食べた事はない。

 今までに食べた、どんな果実よりも、給食でたまに出てきたデザート枠のフルーツよりも‥‥不味い。


 『ぺっぺっ! うげぇ‥マズっ!』


 瞬時に川の水で口をすすぐ。それでもなんかまだ口の中に居座ってる気がした。


 『はぁ‥期待したんだけどな‥‥。』


 雪崩なだれるように下がったモチベに、僕の腹は今にも泣き出しそうな赤ん坊になりかけている。


 『‥‥また歩くかな。』


 けれど、諦めてたまるか。

 重い腰を上げ、一歩、また一歩と歩き出す。

 

 『はぁ‥! はぁ‥‥!』


 ここまで来てやっと気づく。

 さっきまでだるかったそれは倦怠感に。

 頭のクラクラはズキズキに。

 両足の疲れと痛みはフラフラに変わっていた。

 やべっ‥‥これあかんやつ‥‥!


 『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』


  










  

  ドサッ‥‥




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